※桃井視点


初めて彼女を見たときはびっくりした。この世にこんなことがあっていいものなのかと、つい疑ってしまうほど。だって彼女の容姿は私が愛して止まない彼そっくりだった。雰囲気とか背丈とか、長さこそ違えど同じような色合いの髪も似てる。でも彼よりも少しだけ濃い空色に見えた。
ホント、あんな子が同学年にいるなんて青峰君に言われるまで気づかなかった。



──ほらあの女。あそこで弁当食ってるアイツのことちょっと調べてこいよ。

屋上で一人黙々と食事をする女子を指差し、青峰君に依頼されたのがきっかけだった。およそ三週間前のことで、内容はなんてことないただの情報収集。名前とクラスと部活とか。私がその気になれば身長体重はもちろん家族構成やお風呂に入ってる時間まで調べあげるのは朝飯前なのだが、青峰君はそこまでしなくていいと言った。


「そう…分かった。じゃあ明日の昼には」


いい結果が持ってけると思うわ。
……そう言ったのだけど。


「あり得ないわ青峰君。あの子のこと調べるのにこの私が三日もかかるなんて」


青峰君に貰った飲むヨーグルトを一気に飲み干しながら、けだるそうにパンを噛る彼に愚痴をこぼす。
だって最初は楽勝だと思ってた。彼女の後をつけてクラスをチェックし、あとは友達と喋ってるのを聞き耳たてて名前を確認したら任務完了…のはずだったのに。


「どのクラスを覗いても全然あの子見つからないし、やっと見つけたと思えばすぐ居なくなる」


こう、すーっと静かに透明になって視界の隅から消えてる感じね。私は身振り手振りを交えて話す。青峰君は眠たそうに欠伸をひとつ。
しかもね、あの子のクラスメイトから花子って呼ばれているみたいだけど本名じゃないみたい。なんでも、教室に置いてある花々の鉢をいつも手入れしてるからそこから花子って愛称がついたらしいの。
でも他がさーっぱり。だって彼女の友人関係も掴めないんだもの。っていうか透明。ますます"彼"に似てる。


「……で、あの女について分かったことは?」
「ん?ああ、名前は花子、身長168センチの帰宅部」


あと、図書室に行ったときたまたま知ったけど彼女は図書委員だと言うこと。これだけですすみません私って無能よ。


「あー別にいいよそんだけ分かりゃ。あとお前にはソレ(胸)があるんじゃねえか十分じゅうぶ…」


うわサイテー。私が空になった紙パックを投げた。避けられたけど。こういう時やっぱ青峰君って腐ってもバスケ部なんだなあて思う。


「でも珍しいね。青峰君が他人に興味を持つなんて」


やっぱり似てるからかしら?彼女と"彼"が。男と女っていう違いはあるけど行動の端々とか雰囲気とか…全体的にそっくりだもんね。青峰君もどっかで感じたんでしょ。


「ただの気まぐれだよバカ」


いいからもう寝かせろよ。青峰君はおっきな欠伸をして机に伏した。




まあいいか。

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