「おーう」 「……お久しぶりですね青峰君」 部活から逃げたくて今日もまた屋上に来た。案の定、女が日陰で本を読んでいた。一度気づけばすぐ見つけられるが、こんな分かりやすい所にいるのにどうして今まで見つけられなかったのか。 「また昼寝ですか」 「わりぃかよ」 「いえ全然。むしろよく寝れますね」 「暇だからな」 だから黒焦げなんですか、と女は本に目を落としたまま言った。ほっとけ、地黒なんだよ。 「あ、そーだ…」 寝る前に一つ、こいつに言っとかなきゃいけない事があった。オレの安眠を邪魔されることなく遂行するための重要なこと。 「多分そのうちさつきが来っけど、オレのこと聞かれても知らないつっとけ」 これで準備万端。定位置に寝転がってさあ寝るぞ、と目を瞑ると女がさつきって誰かと聞いてきた。ピンクの巨乳だと適当に教えといた。そんじゃおやすみ。 : 「あ、ねえ」 「……私ですか?」 「そうあなた」 ねえ青峰君を見なかった?と聞かれた。ああこの人が彼の言っていた"さつきさん"なのか。なるほどピンク色の髪に、私には到底かないそうにないボンキュッボンだった。 「……さあ?見てませんけど」 「そう」 困ったわね。と、さつきさんはその豊満な胸を強調するように腕を組んだ。ああいいなぁ。そこを見つめて不覚にも思った。私の存在感が極端に薄いのはアレがないからなのではないか…なるほど納得。 「何が困ったんですか?」 「それがね、今週末に大会があるのよ」 「それは確かに困りましたね」 ガングロでもバスケ部のエース様。その青峰君が練習にすら来ないとは、さぞ困りモノだろう事が運動部の経験が無い私にも理解できた。青峰君の言う通りに知らないフリでもしてようかと思ったが、彼女の深いため息に私は負けた。 ちょっと待っててください。私は読みかけの本を閉じてペイントハウスをのぼる。意外とのぼりにくい。 「そういうコトですから青峰君、部活に行きましょう」 「………あ゛あ゛?」 青峰君はペイントハウスの上で日向ぼっこも兼ねてぐっすり寝ていた。それを、体を揺すって半強制的に起こしたもんだから彼の機嫌がすこぶる悪い。目付きの悪い悪人面が更に悪くなった。わあぉ怖い。 「起こすなよ…ったく」 「でも青峰君、」 やっぱり部活は大事ですよ、だって大会近いって言うじゃありませんか。それなのに私をも騙して昼寝をするなんてダメですよ。 「いいんだよオレは別に…」 「良くないわよ青峰君!」 「げぇ、さつき……」 遅れてペイントハウスに上がったさつきさんが仁王立ちで青峰君を見下ろす。風で髪やスカートがなびいてて迫力がある。そんな彼女を見上げて青峰君は蛙が潰れた時のような声を出した。 「部活に来ないなら私にだって考えがあるわ!」 さつきさんはパーカーのチャックを緩めて中から雑誌を取り出す。それには"堀北マイ写真集"とかかれていて、水着姿の女性が表紙を飾っていた。 「ああ!オレのマイちゃん!?」 テメェ何する気だ!と突然青峰君が狼狽え始めた。そうかアレは彼の所有物であり、人質と言うわけか。 「どうやら青峰君に勝ち目は無いようですよ」 部活頑張ってきたら明日、お弁当作ってきてあげるので。と言ったら青峰君はやっと重い腰をあげた。 しゃあねーな行ってやるよ。…どうしてそんなに上から目線なのだろうか 「たこさんウインナー必須な」 そう言って青峰君は屋上から出ていった。提案した自分が言うのもなんだが、よくお弁当ごときで釣れましたね。 まあいいか。 |