彼女の自宅だという寺で出会ってから1週間程が過ぎた。山田花子(仮)は本が大好きな隣のクラスの図書委員、身長は168センチの帰宅部(さつき調べ)
本名だけは、バスケ部一の情報収集家であるさつきが調べても分からなかった。さつきは自分は無能だなんだと随分落ち込んでいたが、お前には立派な胸があるじゃねえかと言ったらビンタを食らった。あれ、ビンタ食らったか?……まあいいや。


「おい」
「…なんだ青峰か」


丁度隣のクラスのから出てきた男子をつかまえた。いかにも病弱そうなソイツはオレの顔を見るなりビクリと肩を震わせたが、一応逃げずに話は聞いてくれる。


「あいつ…あの敬語女どこだ」
「敬語?ああ花子のことか?」


彼女なら多分…。と男は教室を見回したがどうやら居なかったようだ。っつーか、クラスメイトからも花子って呼ばれてんのかよ。授業を抜け出して生徒会室でサボってるような奴だからてっきり人間関係は希薄なもんだと思ってたのだが、あだ名を付けてもらう程度には交流してるようだ。


「多分図書委員だから図書館で本の貸し出し当番して」


情報はそれだけで十分だった。男の話を最後まで聞くなんてそんなめんどくさいことはしない。図書館か…本を借りる、ってか本を読むということ自体しないオレとは縁の無い場所だ。



 :



「だったら帰ってください青峰君。仕事の邪魔です」
「んだよツレねーな」
「うるさいです青峰君」
「オレがここ来ちゃわりぃかよ」


当たり前じゃないですか借りる気が無いなら来る意味ないですよ、何で来たんですか。私は静かに仕事をしたいんです。そもそも青峰君は本の借り方を知っていますか?と、パソコンを操作しながら一息で言った。コイツすげえな。


「で、何か御用ですか青峰君」
「いや別に用事ってほどじゃ」
「なら帰ってください」
「…オレそろそろ泣いてもい?」
「外でどうぞ」


間髪入れずに極寒ブリザードが吹き荒れてるよちょっと。なにこの女、口から鋏でも飛ばせんの?さすがにオレだって耐えられないよ。


「はいはい扉は私が開けて上げますからどうぞおかえりっ」
「あなたもついでに帰りなさい」
「……痛いです司書さん」


扉を少しだけ開けたとき、女の頭にバインダーの角がクリティカルヒットした。あまりの衝撃から、女は後頭部を押さえて声を殺しながら悶えてる。
図書館に初めて来たから司書の人も初めて見たのだが…美脚だ。


「入り口でぎゃいぎゃい騒がないでくれる?勉強してる人だっているのよ。もう今日は上がっていいから彼の相手してあげなさい。私、見てて辛いわ…」


哀れんだ目でオレの顔を見るなよ…そう反論したかったが、いましがた静かにしろと注意を受けたばかりなので、口元を押さえて泣くマネをしながら去って行く司書さんに何も言えなかった。
バタン。立て付けのあまりよくない扉が勝手に締まり、オレら2人はむなしく締め出された。


「青峰君のせいですよ、私が追い出されたの」


どうしてくれるんですか、と感情の読めない話し方で女は言った。心なしか涙目だ。バインダーの攻撃が地味に効いていたようだ。
どうもこうも一番喋ってたのはアンタのほうだし。責任転嫁はマジやめろよ。ついでにため息もわざとらしく吐いてんな。


「仕方ないからゴリゴリ君で手を打ってあげます」
「何でだよ」


だって青峰君が用もないのに図書館なんていう君には酷く場違いな場所に来たのがコトの発端であり元凶なんです。とこれまた一息で言い切った。驚異の肺活量だな、オイ。


「ハーゲンダッツの方がよかったですか?」
「いやゴリゴリ君で」


ちょうど昨日小遣い貰ったところだから財布にはいくらか入ってる。自分も何か食いたい気分だったからゴリゴリ君くらいなら…まあいいだろう。


「じゃあカバン取りに行って来るんで、正門で待っててください」
「おーう」


パタパタと走っていく女に、適当に返事をして正門に向かった。
ああそういえば、なんでオレ図書館に行ったのかな。




まあいいか。
(遊び相手が、
欲しかったのかもしれない)

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