「せんぱーい」 「どうしたの紫原君。忘れ物でもした?」 部活終了後、誰もいなくなった体育館でひとり清掃や片付けや洗濯をしていた私の前に、いつもなら誰よりも先に帰るはずの紫原君がひょっこり現れた。 「違うよ先輩」 じゃあなに?とタオルを畳む手を休めて見上げた。ただでさえデカいのに正座もしてるから上げる顔の角度がハンパなくて辛い。 「ん、」 「…………ん?」 何も言わずに差し出された大きな手の平。わー改めて見るとでっかいわぁ…私の頭なんてすっぽり掴めそう……なんて考えてる時じゃなかった。 「その手はなにかな紫原君」 「……だって室ちんはポテチたくさんくれた」 「は?」 「だから先輩も」 なんかくれないのって?アホか。あの優男と私を比べるな。ってかもう片方の手で持ってるビニール袋はもしやポテチが入ってるのか。だとしたらスゲー量だな。体育館を出る時は持ってなかったからきっと帰る途中に買ってもらったのだろう。それにしても気前が良すぎるぞ氷室 「……じゃあ洗ったボトルを乾燥機に入れて来てよ」 「えーそれマネージャーの仕事じゃん」 「働かざる者食うべからずって言葉知らないの?」 それともこの前壊した部室のロッカー、雅子ちゃんにチクってあげても… 「いーよ、わかったよやってくるよー」 それだけは勘弁と思った紫原の行動は早かった。水気がまだ残ってるボトルを部室の乾燥機にささっと入れてきた。 「じゃああとは…」 「まだやらせるの?」 「だめ?」 「だって……」 「今日は」と言ったあと口籠もった紫原君。知ってる。知ってるけどさ、あまりにも物欲しそうな目で見てくるもんだからついからかいたくなってしまって。 「今日は何の日かって?」 大丈夫、そんなのちゃーんと知ってんだから。 「ハッピーバースデーでしょ紫原君の」 「うん。そう…」 やっぱりお菓子に目が無い紫原君でも誕生日を祝われると小恥ずかしいものでもあるのだろう。がっちりした肩を丸めてなんだかソワソワしていた。 「オッケー分かった。手伝ってくれたお礼にコンビニプレミアスイーツをご馳走してあげる」 「やったー」 先輩ダイスキーと紫原に抱きつかれた。……危うく川を渡るところだったぜ HAPPY BIRTHDAY 紫原! (じゃあ杏仁豆腐とレアチーズケーキとチョコケーキロールケーキ焼きプリン…バナナクレープとあんみつと) (ちょっ、まてまてまて。そんなに!?) (だって先輩、一個って言ってないよー?) (しまった!) |