今日は朝から周りの様子が変だ。
朝練をしてても今吉先輩がやたらと自分の事見てきたし、諏佐さんはいつも通りのようだったがいつめより人と距離を置いているよう。若松先輩もそわそわと落ち着かなかった。

……あの人が落ち着いてるなんて目ってないのだが。

僕は居心地が悪くて、朝練を速く切り上げようとした。


「スミマセン。先に上がります」


キャプテンに駆け寄り、そう告げる。すると周囲の目が一斉に此方へとあつまった。


「な、何ですか?」


スミマセン。自分何かしましたか?とキャプテンに聞いた。すると先輩も困ったように眉根を寄せた。


「桜井、悪い事はいわん。もう少し練習してきた」
「は?」
「いやお前の練習量がどうとかフォームがどうとかやないんけどな」
「はあ、」


何が言いたいのか僕には分からなかった。分かるとしたらキャプテンは僕をここに引き止めて置きたいということ。
だって他の選手達はだんだんと練習を終えて部室に戻って行った。


「いったいどうしたんですか?」


まるで僕にだけ隠し事をしているようで…



「キャプテン!」
「おう!分かった」
「?」



若松先輩が部室から顔だけだし今吉先輩を呼んだ。
今吉先輩はそれだけで意味が伝わったようで、ひとつ頷いて、僕に言った。


「ほな桜井、帰ろか」
「ええ?」


全く状況がつかめないまま、先輩に背中を押されて部室に連れられる。
されるがままの僕は押し込まれるように部室へ入った。




「誕生日おめでとー」




満天の笑みでクラッカーを引くマネージャーの姿がまず目に飛び込んで来た。その隣には桃井さんも。


「先輩に、桃井さん……」


それに若松先輩や諏佐さんや、青峰君までいた。あと、あまり喋ったことない先輩や同輩がいっぱい。


「あの…これは?」
「何って亮くんの誕生日パーティだよ」
「先輩が企画したんだよ!」
「ちょっ、桃井ちゃん恥ずかしいからそういうのは内緒にしてよ!」
「いいじゃないですか先輩ー」


けらけら、と愉快に笑う2人のマネージャーは使いおわったクラッカーを今吉先輩に押し付け、次は白い箱を桃井さんが持ち、先輩は蓋の持ち手を掴んだ。


「これは先輩からプレゼント!」
「え、えっと……?」
「安心して亮くん。桃井ちゃんは一切手を出してないから」


二人は小さく「せーの」と掛け声をつけ、


「手作りアップルパイでーす!」


ぴったり重なった声と共に開けられた蓋と、たくさんの拍手。
そして目の前にあるパイはとても美味しそうだった。


「ありがとう、ございます……」
「さあ、まず一口食べて見てよ!」


先輩は紙皿に1ピースのせプラスチック製の使い捨てフォークを僕によこした。


「スミマセン、こんな僕のために」
「いいのよ気にしないで!」
「けど…」
「けど?」

「さっき朝ご飯食べたばかりなので家で食べますね」

「…………」
「…………」



先輩の手の中にあるフォークがパキッと渇いた音を立てて真っ二つに折れた。




HAPPY BIRTHDAY 桜井君!

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