部活後、誰もいなくなった第三体育館。オレは自主練としてスリーの練習をしていた。ここなら誰にも邪魔されない。
そう思って来たのだが、第三体育館に居るのはオレだけじゃなかった。ステージに寝転がって、顔だけこちらに向けてくる男子。


「……なんなのだよ」


さっきから人の自主練を眺めてばかりで何もしてない名も知らない男。Tシャツに短パンそしてコンバースのわりといいシューズを履いているから、おそらくバスケ部員。


「練習しないのなら帰れ。気が散るのだよ」


きつく言い放ったつもりだったが、奴は無反応。相変わらずオレの自主練を見ていた。


「………」
「………」
「……ッチ、」


今のはシュートタッチが悪かった。外れるほど狂ったわけではないが納得のいかない触り心地だった。
原因はわかっている。あの視線だ。
見極めるような、見定めるような、気持ち悪さが体で感じる。


「おい、口で言っても分からないなら、オレにも考えがあるのだよ」


シュートをするフリをして奴に落としてやろうか…とかな。
脅しにちかい謳い文句を言ってやれば、やっと奴は反応した。

ニヤリ、と笑ったのだ。
寝そべって、まばたき以外何もしなかったこの不審な男の口角が不気味に形どる。


「緑間真太郎君」
「なぜオレの名前を──」
「バスケ部創設以来のナンバーワンシューター。ハーフコート内からならほぼ100パーセント、外れるシュートは打たない主義。メガネ。そして今日のオハ朝は盆栽ばさみ……ふーん」


ニタリと笑った後、その口は開かれ流れるように言葉が出てきた。
少なくとも今日まで合ったこは無かったはずなのに──


「何者だ、お前は」
「………」
「おい!」
「え、あ……えっ!?」


いつまでも反応しなかったのでつい声を荒げてしまった。
ステージに寝そべっていた男はやっと呼ばれているのに気付いたようで、目をぱちくりさせて飛び起きた。


「あーえーごめんなさい聞いてませんでした……何か言った?」


両手を合わせて拝むように謝る男。そこにはもう刺すような鋭い視線や雰囲気は消えていた。あれは幻か気のせいかと思ってしまうほどに。


「何者だ、と聞いているのだよ」
「ただのバスケ部員だよ。あ、明日から一軍で一緒に練習することになったから…よろしく」
「!」


オレは驚いた。
こんな小さくてひょろひょろして弱々しそうな奴が一軍に来てもやっていけるかが心配だったから。まあ実際赤司が一軍に居るが、あれは別格だ。


「お前みたいなヤツが一軍だと?」
「え、あ、うん…ごめん」


またシュンとなって顔を伏せた。
ひどい人見知りだと、思った。


「おい直也」
「! 征十郎!」


入り口で赤司の声がこの男を呼んだ。
そうか、直也という名前なのか。


「一軍入りの前にいろいろ説明があるから何処にも行くなと言ったはずだが?」
「ごめんっ昼寝してたら忘れた!許して征ちゃん!」
「分かったからその名で呼ぶな」


ほら行くぞ、と赤司は直也の手を引いて体育館から出ていった。




査定終了
(緑間君って面白いね)
(視たのか)
(うん。将来有望だねあれは)
(そうだろうとも)

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