「それでは解答用紙を返します」 本日三回目の言葉。英語、理解と来て今度は数学が戻ってくる。 「花宮」 順当に名前が呼ばれていく。 赤で丸付けされた用紙を先生から貰って、窓側から二列目最後尾に座った。 さあどうかなキミは。なんて机の上に無造作に置いてある教科書がほくそ笑んでいるようだった。 緩く折られたソレを開く。そこには本日三回目の三桁満点の再生紙。できばえはとりあえず良い方だろう。 「橘川」 隣の、窓側の席の彼女が名前を呼ばれた。彼女はてれ笑いしながら平均的ギリギリの点数を眺めながから席に着いた。 「50と、6……」 あと4点あったらな。と橘川は呟いた。 どこが悪かったのだろう。ケアレスミスかな……そう自問自答する彼女の桁の低い答案用紙をこっそり覗いた。 「…ああ、これは2乗するのか」 なるほどそうか、と納得してるようだが実際には2乗ではなく、ただのかけ算だ。 どうしてそんな簡単なミスに気付けないのか。オレはなんだかイライラした。 「………なに?」 「あ……」 とうとう橘川は、じっと答案用紙を見つめるオレの視線に気づいた。 その間違いを言ってやるべきか否かを決めあぐねて口をパクパクやってると、彼女もオレの答案を見た。 「満、点…」 橘川は目をこれでもかという程見開いて暫く答案を眺めていた。そんなに珍しいものなのだろうか。 「なんだよ56点」 「…えっ、あ、これ…いや……ごめんねっ」 えへへと笑って橘川は恥ずかしそうに頭を掻く。 「す、凄いね花宮君は。満点だなんて」 その場を取り繕うように話題を作り出した橘川。 それにオレは、べつに、と返した。 「こんなのただの紙切れだよ」 数字になんて意味は無い。 こんな再生紙の一枚や二枚、家に帰ったら速攻ゴミ箱行きだ。いつまでも保管しておく理由はない。 「丸めて捨てるの?そんなんじゃつまらないでしょ」 オレの話を真面目に聞いていた橘川は何を思ったのか、自分の答案をせっせと折りだした。 「何やってんだ」 「まあいいから見ててよ」 そう言って、解説している先生の声なんてスルーして作業を進めた。 まあ先生のつまらない解説なんて聞いてる人数の方が少ないが。 「ほらできたー」 ほら見てみて、と彼女は自慢気に差し出したソレ。 「なんだ、鶴かよ」 右翼の部分に堂々と56の文字が。 点数の割りには、その折り目はピシッとしてた。 「うまくできたでしょ?」 得意なんだ、と彼女は言って机の上に飾った。その手慣れた手つきを見てると、今までにもこうやってツルを折っていた事が伝わってきた。 「はっ、おまえ筋金入りのバカだな」 「なにおぅ!?」 ガタタンッ。 派手な音を立てて彼女は立った。 「うるさいぞ橘川」 「あ…すみません……」 先生に叱られて静かに席に座った橘川。鼻で笑ってやろうかと思ったが予想以上に彼女に集まった冷たい視線にビックリして、オレはつい彼女から目を反らした。 ∴答案用紙の使い方 |