土埃立つ柳洞寺の地下。人々とサーバントは緊張の糸を張り詰めさせていた。いままさに、聖杯をかけた雌雄を決する闘いが始まろうとしているのだ。
アーチャーたる英霊エミヤは、マスターである凛の指示に従いながらも目前に背を向けながら立つ、過去の自身の消滅を望み、魔術回路を解放する。……凛の手前、いまはまだ剣を向けることはしないが。だがセイバーが捕らわれているいま、勝敗を覆すにはよい展開でもあり、そのなかでこの男を討つ機会もあるだろう。とにかく、いまはキャスターの様子を見ておくとするか。
しかし、そこになにかがよぎった。悪意あるものであると感じたとともにほとんど無意識に剣を作り出し、そのなにかに向ける。不本意ながら、彼は同盟相手であるし、凛の雷を避けるためだ。
ガキィィン
刃が重なる音ともな花火が散る。剣筋は通っているが、ずいぶんと軽い。まるで、中身のない骨組みを凪ぎいたようだ。
「なに!?」
アーチャーが両刃の剣撃で投げ飛ばしたものは、床に身を打ち付けながら、すぐにふわりと身を翻した。そして、砂煙の間から見える異形の姿。なにかの動物の骨と鎧に日本刀。物の怪の類いとしか思えなかった。
「右よ、アーチャー!」
凛の声に、アーチャーは右へ跳躍する。瞬きの間に、凛の放った宝石魔法が、キラキラと輝きを放ちそれが剣のような鋭さをもって敵影に放たれる。立ち上る砂煙。
「いったいなんだっていうの」
キャスターの仕業かと睨みをきかせるが、キャスターは状況がわからずにマスターを背に立ち尽くしている。
そこで、凛はある変化に気がついた。キャスターの隣にいた、ずいぶんと主張の激しい使い魔が消えていたのだ。
いったいどこへと、視線を土煙から離した、次の瞬間。沈黙を守っていたその土煙から目にも止まらぬ速さで、ギラリと光る刃が現れた。息を飲む凛。たしかに手応えがあったのに。
靴で地面を蹴り、その斬撃を逃れんとする。しかし、その間にも剣先は凛との距離を縮めていた。間に合わない……!アーチャーの焦った顔が見え、手を伸ばした。
その手を握ったのは、褐色のそれではなかった。白魚のように細く、美しい手。
「歌仙」
「まったく、刀使いの荒い主だ」
ギィン
刃の重なる音ともに火花が散る。紙を引き裂くような叫び声で、異形な者が後退する。体には、たしかに一太刀あびた傷がある。
「あなた、大丈夫?」
砂塵が舞い、凛の視界を一度奪うが、ぶわりと風が吹く。そして現れたのは、艶やかな美少女だった。風に揺れる巫女の袴裾と、それにじゃれつくように桜の花片が舞い立つ。間違いない。彼女は、キャスターの横にいた少女だ。
「……」
言葉も出ずに、黙り混む凛。それは驚きからなのか、それとも……。
「見惚れてるのかしら。私も、自分の罪作りな美貌に言葉もでないわ」
「主、それは今言うことかな」
「そうね、今さらだったわね」
「…………はあ」
ため息をつくと、歌仙は再び刀を構え直し、一振り。弱りきっていた異形はそれだけで短く鳴き、体を露へと飛散させた。
「あなた、……マスターなの?」
サーバントらしきものを従え、主と呼ばれる少女……凛には、マスターとしか思えなかった。ならば、自分は敵の胸にいるのか。なんとか攻撃できるようにとスカートのポケットに手を伸ばす。
マスターかと問われた美少女は、凛を抱き締めたまま、鼻で「ふんっ」と笑う。
「私はアイドルよ」
勝ち気な笑顔とともに放たれた、問題発言。その場にいた誰もが目を見張り、アイドルを名乗る少女を凝視する。
「明日子様……あれほど、言ったではないですか……あれほど……」
その足元で、1匹の白狐が目元を覆っていた。
170704
続きが書ければ、なぜここにいるのかも書きたい……。そして英雄王と掛け合いをさせたいです。
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