飛んでたIfコナン

※映画、純黒の悪夢ネタバレを含みます





なにがどうしてこうなったのか。

「……ということは、あなたがノックリストを持ち出した犯人ですね。礼子さん」

室内全員の視線を浴びながら、頬が盛大にひきつる。イケメンならなんでも許されると思うなよ。礼子は、目の前に立つ褐色肌のイケメンを睨み付ける。

ことの発端は、こうだ。

色々なことがあって、タケルと盛大なケンカの末に家出していたエジプトから、仲直りを機に日本にやってきた私。ジョースター家の因縁からようやく解放されたことだし、これからの人生をゆったり楽しもう。そう決めて、タケルと一緒に仲直り旅行だと訪れた東都水族館。

「悪い姉ちゃん!ちょっとここいて!」

「はあ?」

複合施設内のレストランを出てすぐ、タケルの携帯が鳴ったかと思うと、礼子にそう言って走り去ってしまった。観覧車の方に行ったようだけど、なにがなにやら。仕方ないのでダーツゲームでダブルブル(的のど真ん中)を3連続決めて、イルカのキーホルダーをもらったり、アイスクリームを食べたりしながら暇潰しをしていたけれど。

「さすがに遅すぎる」

貧乏ゆすりが止まらない程度には苛立ちがマックスなわけで。なにしてるんだかあいつは……と観覧車の方を見てみたら、なんとタケルが観覧車の滑車上にいるのを見つけたのだ。煙となんとかは高いところが好きとは、よく言ったものである。

これはお仕置きだね。

こめかみに血管を浮かばせながら、礼子は足早に観覧車の下まで歩く。人混みを掻き分けながらなんとか観覧車の乗車列にたどり着いたが、しかしなにやらトラブルがあるらしく、乗れないらしい。仕方がないと、人のいない場所へ移動。十分にあたりを気にしながら足の裏に力を込めて、勢いよく跳躍する。そして動くゴンドラの屋根に降り立つと、何度かそれを繰り返して観覧車の内部に入り込んだ。

「タケルは……上か」

すっかりなれてしまった要領でタケルの気配を探って、オレンジ色に照らされた建物内を登っていく。そして何回も跳躍をした先に、ようやくタケルの後ろ姿を捉える。勢いよく床を蹴って、タケルが立つ後ろにある鉄筋でできた手すりを左手で掴む。そして、手すりを飛び越える要領で右足をタケルの背中に叩き込む。

「ギャアアアアッ」

前方に気をとられていたらしいタケルは、受け身もとれずに床に沈んだ。追い討ちをかけるように、礼子はうつ伏せにダウンするタケルに跨がって両足を掴んで力を込める。いわゆる、逆エビ固めである。

「イダダダダダァァァッ」

「女ひとりでこのリア充エリアにいる苦痛はこんなもんじゃないわよ」

「ンギャーッ」

「ハッハッハッー伊達に150越えてないんだよこちとら!オラオラァ!」

「ギブギブギッ……ふる、ウッ……安室!!助け、助けろッ」

「アムロ?なに言って……」

ふいに感じた殺気に、礼子は素早く身を空中に翻す。頬に感じた風圧。これは……。手すりに降り立ち、先程まで自分がいた場所を見ると、健康的な肌のイケメンが拳を突き出した状態でこちらを呆然と見上げていた。

かと思うと突然不敵に笑い、冒頭のセリフを吐いたのだ。ノックリストを持ち出した犯人、と。

「それとも……このFBIの仲間、とでも?」

「……FBI?」

映画でしか聞いたことのない単語につられてイケメンの背後を見れば、眼光の鋭い色白イケメンが立っていた。……イケメンだらけだな!ってことは、ちょっと待ってこれってもしかして。……いや、それともこれもジョースター家の因縁なのか。

「待ってくれ安室。公安資料でもわかってるだろ。この人は怪しい人物なんかじゃない。いやそれよりも、今は爆弾を!」

取り乱した様子のタケル。なんかシリアスっぽいこと言ってるけど、よりいっそうフツメン際立ってる。空気も読めずに残念がる礼子だったが、随分と前から感じていた人の気配にならって今度は手すりの下を見る。そこには、かわいらしい少年がいた。

「赤井さん……!って、誰だ!?」

「あ〜〜〜〜!コナン君来ちゃったよ!もう、次から次へと……だからあそこにいてって言ったんだよ!姉ちゃん!」

頭をかきむしり、礼子に噛みつくタケル。あーなるほどねたしかに今回ばかりは私が悪かったかもしれないけど……。

「仕方ないでしょ……私、もう絶対……」

弟を失いたくなんて……ないんだから。

眩しく輝く日差しのなかで、さらさらと灰になっていくディオの姿を思い出しながら、礼子は悲しげに笑う。

「“弟”だけは守るって、決めたんだから」

「……姉ちゃん」

「どーせまた厄介ごとに首突っ込んでるんでしょ?これでも腕っぷしには自信あるから付き合ってあげるわよ」

「腕っぷし、ねぇ」

礼子の言葉に、安室と呼ばれた男はフンッと鼻で笑って首をかしげる。明らかなる、挑発である。

「たしかにタケルに礼子という姉がいることは知っていたが、たしかただの学生だったはずだ」

「……それに、特に運動も成績も目立った結果は見られなかった」

安室の言葉を補足するように口を挟んだのは、色白イケメンだ。きっと、下にいる坊やが言っていた「赤井さん」だろう。

「そんな学生に、腕っぷしには自信あるからと言われてもね。今は君のアクションごっこに付き合うほどの暇はないよ」

「……」

ふーんほーへー。

腹の底から、煮えたぎっているのは、怒り。それはわかる。そしてそれに身を委ねてはいけないこともわかる。が、しかし。やっぱりどうしたって納得がいかない。イケメンならなんでも以下略。

ガシッ

「そうですよね」

ほとんど無意識に掴んだのは、手すりについているバルブ。軽く手首をスナップしてバルブの上を外して、握り込む。

ガキッ

「この程度じゃ」

手のなかで粉砕し、開くと……砂利のように粉々になったバルブの蓋だったものが、重力に従って落ちていく。

「お力になれませんものね」

沈黙が落ちるなか、礼子は手に残る鉄屑をパラパラと落とす。そして、なにやらさっきタケルが聞きなれた少年の名を言っていたなと、ぼんやり考えていた。



160620

龍ノ助様リクエストの「飛んでた」ifコナンで犯人疑惑をかけられる、でした。

昨日遅ればせながら映画観てきました。書いてしまいました。リクエスト内容はこういったものではなかったかもしれませんが……。すみません。そして続きが書きたくなって止まらなくなってしまったのと、あまり書くとネタバレ度合いがすごいことになってしまうので、ここまで。ちなみにタケルは公安です。

もし続編書くなら、日常編にしてコナン君に怪しまれながら安室さんとイチャイチャさせたいですね!

素敵なリクエストをありがとうございました!
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