×PP

「こちらハウンド5。ターゲットを補足。北に向かって移動中だけど」

《その先は行き止まりだ。引き続き奴を追え》

「了解」

冷たい雨に打たれながら、走る。走る。行き止まりを目前に、ターゲットが振り向いたところでドミネーターを起動させ、監視官の宜野座から受けた指示を遂行するために地面を蹴った──


つもりが、どうやらそれはただの地面ではなかったようで。雨粒に遮られた瞬きひとつ、のちの間。

「……ッ、消えた!?」

目の前の景色が、一変していた。そこには恐怖に引きつったターゲットのご尊顔もなければ、追い込んだ行き止まりでもなかった。あったのは、対面するように置かれたソファと、設置された棚。積まれた書類の数々。

慌ててあたりを見回すも、自身の体についた雨粒が払われただけで特に何かの変化もない。自らの呼吸音で我にかえり、名前はようやく落ち着きを取り戻し始めた。

ふと、瞳に光が差して視線を動かせば、鏡文字で「毛利探偵事務所」と書かれた窓を捉えた。どうやらここは、探偵事務所の一室のようだ。

「このご時世で探偵、ねぇ」

窓辺によって、ブラインド越しに眼下を行く歩行者に目を細める。なんの変哲もない街の風景だ。公安局のドローンもいない、となれば……私が追っていた潜在犯は捕まったようだ。ドミネーターもホルダーに戻すかと逆手に握り直すと、思いもよらず声をかけられた。

「おやおや、白昼堂々と空き巣ですか?」

「…………空き巣だなんて、失礼ね。捜査中に迷子になっただけよ」

あくまでも冷静に、声の主に振り向く。褐色の肌をした男だ。随分ときれいな顔をしている男が、部屋の扉近くにたたずんでいた。

「捜査?いったいなんのです。なんの権限があってのことですか」

「公安局よ。ついさっきまで、潜在犯の無力化遂行中だったの。ちなみに私は監察官ではなく、執行官。……お分かり?」

大抵の人間はこう言えば、尻尾を巻いて逃げ出す。……だが、目の前の男はどうやら違ったようだ。

「公安だって?……フッ、そんな嘘に騙されるとでも?生憎だがそんな任務、この俺さえ聞いていないぞ」

「はあ?なに言っちゃってんの。あんたまさかテロリストかなにか?」

執行官という言葉に怯えもしないなんて。逆手にしていたドミネーターを素早く構えて、相手に向ける。するとようやく男は動揺をみせ、瞳孔を開いた。

こいつ、ドミネーターを見たことがある……!公安局のみが所持を許されるこの銃を、一般人が見る機会は少ない。にもかかわらず戦闘体勢に入った。つまり、彼はドミネーターを見る機会があった人間……そんなの、テロリストか公安局の人間しかあり得ないだろう。

《携帯型心理診断鎮圧執行システム、ドミネーター、起動しました》

《ユーザー認証、名前執行官。使用許諾確認、適正ユーザーです》

名前の瞳がブルーに染まり、ゆっくりと男に標準を定める。名前と目が合うと同時に、男はまたしても驚きを見せた。

「悪いけど、寝ててちょうだいね」

公安局だろうがテロリストだろうが、犯罪係数がわかればなんとでもなる。

《犯罪係数………………確認できません。トリガーをロックします》

「!……どういうこと!?」

《シビュラシステムとの通信が確認できません。すみやかに通信可能エリアに移動してください》

「シビュラシステムと通信ができない……?」

こんなこと、ありえない。

「見せかけというわけですか」

「クッ」

こうなっては体術しかあるまい。ドミネーターをホルダーに入れて、攻撃体勢に入る名前。だが、その視線の端でまたしてもありえないものを捉えた。

名前の視線の先にあるのは、いまとなってはノスタルジー嗜好者しか読むことがなくなった新聞。その日付に目が釘付けになる。2016年……?

素早く光学電子パットを取りだし、空中に浮かんだ時刻を確認する。2112年……。現在地は──不明? 足元が音を立てて崩れ落ちてくような感覚にたえられなくなった名前は、床に両手をついた。

「お、おい。なんだそれは……どこからそんなものを」

「───タイムリープ、なんて」



160930

みたいなかんじで、コナンに未来の捜査はどんな感じか聞かれたりシビュラシステムを説明したりしていくお話です。ちなみに主人公は元FBIという……。
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