リナリアの夢

部屋に入ると、この部屋の主である研磨がベッドを背にだらりと座り込んでいた。上体だけを起こし、腹の辺りでいじっているのは最新型携帯ゲーム機である。投げ出された足は猫の尻尾のように、ゆらゆらと揺れている。部活がなくて暇なんだろうな、と思いながらベッドの上に腰掛けると、急に動き出した研磨の右手に棒アイスが握られているのを発見した。空色をしたそれは、きっとソーダ味。口許まで連れていき、かじりつく。この一連の流れでも、研磨の視線はゲーム画面から離れない。

チラリと覗く棒に「アタリ」と書いてあることも気づいていない。幼馴染みである私がいることさえ、おそらく気がついていないだろう。しかし、せったく来たんだから構えよと言うのも癪だ。ならば私も好きにさせてもらおうと、ベッドの上に身を転がす。タオルケットのような布団かけを足で整えていると、ぼそりと研磨が呟いた。

「名前ちゃん……ベッドで、寝ないで」

「……なんだ。いるの気づいてたんだ」

布団を整え終えて、研磨のいる方に背を向ける。もちろん、研磨の言うことを聞くつもりはない。寝返りを打った音で、研磨もそれを察したらしい。ゲームの爆発音が止む。

「ゲーム終わったら起こしてね」

律儀な研磨くんのことだから、きっと大丈夫だろう。名前はもたれ掛かってくるような眠気に、意識を委ねた。




「名前、起きて」

「ん、んん」

肩を揺さぶられる感覚に、目を開く。白いシーツが広がっている。呆けながらシーツのシワを眺め、研磨のベッドで寝ていたことを思い出す。研磨のゲームは終わったらしい。しかしまだ眠気は残っているし、寝始めてからそれほど時間が経っていないような気がする。

「名前、名前ったら」

「もうちょっと……寝る、から」

研磨がなおも起こそうとするので、起こさないでくれと身をよじる。肩に置かれた研磨の手が、静かに離れていく。これでまた眠れると、瞼を閉じた。体が沈んでいく感覚。それを追いかけるように、甘くて切ない思いが体を火照らせた。

「ん、はぁ……」

びくりと弾んだ体に、名前はまたしても目を開いた。金色のなにかが鼻先をかすめ、名前の体の上に乗り上げている。混濁した意識のなか、口からは甘い吐息が抜けていく。もどかしい気持ちが爪の先まで行き渡ると、ようやく名前もこれが快楽だと気がついた。やわやわと触られ、摘まれていたのは胸の頂き。

「な、に……だれ」

「…………まだ寝惚けてるの?」

金色からチラリと覗く、陶器のように白い肌と猫目。似たような人をついさっき見た気もするが、彼よりも大人びているし、たぷたぷと名前の胸をいじる手は筋ばっている。どう見ても、成人を迎えた大人の男性。幼馴染みでひょろっとした研磨くんとは、全然雰囲気は違っている。

「研磨くんに、似てる」

「研磨だよ」

「研磨くんより……なんか、かっこいい」

「……名前、かわいい」

研磨くんに似た男性は、ゆっくりと名前の肩口に顔をうずめた。なぜだか長くなった自分の髪が、名前の頬をくすぐる。服の中へ差し込まれた手が、名前がいままで感じたことのないような高揚感を生んでいく。

「だ、だめ……研磨くん」

余裕綽々の笑みを浮かべた研磨くんに似てる男性は、耳元に口を寄せて「名前ちゃん」と、囁く。熱に浮かされながら、名前はシーツを握りしめた。声すら似てる。研磨くん、なのかな……。ベッドが軋む音を聞きながら、名前は身を任せた。




「名前ちゃん、名前ちゃん……」

「ふ、んぁ……」

ガクガクと視界が揺れる。開いていたはずの瞳を開けば、金色が写りこんだ。金色の向こうにある猫目は、ほっとしたように瞬きをする。

「ゲーム、終わったよ」

「……ゲーム」

「まだ、寝惚けてる?」

「!」

ガバッと身を起こす。衣服の乱れや部屋なかを確認して、名前はようやくあれが夢だったことに気がついた。

「え、あの、名前ちゃん?」

研磨は、寝る前のまま頼りなさげなひょろっとした様子。いまは名前の動きに驚いて、毛を逆立てた猫のようになっている。とんでもない夢を見てしまった。しかも、本人がいる横で。

「私、帰る!」

ドキドキする胸を押さえながら、部屋を飛び出す名前。部屋には呆然とした研磨と、ゲームオーバーと映し出されたゲーム機が残されたのだった。


140629

拍手リクエストより、研磨の甘微エロ。ありがとうございました!

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