「スクールアイドル、だぁ?」
黒尾が受話器に向かって吠えると、相手は予想していたように苦笑を返してきた。
(まあ、そういう反応だよね)
「お前さ……アイドルって、なにかわかってんの?」
(わかってるわかってる)
本当かよ。呆れてしまい、言葉は続かなかった。電話の相手、名前は高2の夏に親の転勤だとか、出世だとか。なんかそんな感じのあれで、あっけなく転校してしまった俺の幼馴染みだ。
転校すると聞いたときは驚いたが、都内の学校と聞いて腰を下ろした。都内なら特に会えないと言うわけでもないだろうと思ったからだ。しかし、名前が転入したのか女子高だったことと、アホのくせに生徒会に入ったとかで、疎遠になってしまった。研磨のやつは時折、「クロは寂しくないの?」と聞いてくるが、幼馴染みなんてそんなもんだろと返してきた。その度に、研磨は少し拗ねた顔をするが、俺は気づかないふりをしてきた。
そして、そんな薄情な幼馴染みが久しぶりに連絡を寄越してきたかと思えば、突然「スクールアイドル始めたから」の一言。俺が怒りを覚えてしまっても、仕方がないだろう。
(うちいま廃校の危機でさ、それ止めようってことでやってるんだ)
「おい、生徒会はどうしてんだよ」
(それが生徒会長たちもメンバーなんだよね)
気づいたら私も巻き込まれてて〜!なんて、こいつは暢気なことを言っているが、どうせアホだから上手いこと乗せられて引き受けたんだろう。
「で、それがどうかしたのかよ」
(ラブライブに向けて……ああ、あれね。全国大会みたいなのがあるんだけど。それに向けて、ひとつでも票数稼ぎたくて)
「はああ?」
つまり、体よく俺を使って組織票集めようってことか。こめかみに、グッと力が入る。研磨には興味がないようにしていたが、なんだかんだで俺はこいつを気にかけていた。新しい環境でちゃんとできてるのかとか、昔から俺達としかつるんでなかったから、友達もできないじゃないかとか。
そんな俺の心配をよそに、こいつはスクールアイドルにご執心で、欠片も俺を気にしなかったと。そーかそーか。なんだそれ。すっげームカムカする。
「ぜってー入れねぇ」
突き放すように、低い声で、ただそれだけを返す。すると、名前はまたしても予想していたように笑った。
(だよね! 変わってないね、クロ)
「…………お前は変わったな」
(そうかな)
「前のお前なら、ぜってー喚いただろ」
(あー、まぁ)
言いよどむ名前。
「なんだよ」
(口実だしなぁ、て)
「は?」
(クロと話したかっただけなの)
なかなか連絡できなかったから、気まずくってさ。弱気な言葉を溢し続ける名前。……なんだ、なにも変わってないじゃないか。そう気づくと、腹の底から笑いが込み上げてきて、耐えきれずに「ブハッ」と吹き出した。
(あ、あんたね!笑うとこじゃないからこれ!優しく慰めるところだから!)
「はいはい、寂しがりな名前ちゃんを優しく慰めてやるからな〜」
(だっ、から!)
口実になったとかいうラブライブ。まあ、1票くらいは入れてやろうか。それで、ダメ出しを口実に、今度は俺から電話してやってもいい。
140618
ラブライブとコラボ。このあと研磨に言ったら、実は研磨は知ってたりなんかして、また一悶着があるんだと思います。
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