身長差のない恋人 後半

先日、一世一代の告白をして、晴れて西谷くんの彼女になった私。今日は、初めて彼の試合を見に来ていた。彼には見に行くことを一言も伝えてない。伝えようにも、まだ連絡先も知らなかったので、伝えようもない。そのため、差し入れとともに連絡先を交換しちゃおうという下心もあったりする。

自分の連絡先を書いたメモと、差し入れのタオルを握りしめながら体育館内に入ると、ちょうど選手たちが挨拶しているところだった。

「あ、名前!こっちこっち」

名前を手招きしてくれたのは、女子バレー部の友人。どこに座ろうかとギャラリー席を見回していた名前は、これ幸いと隣の席に腰を下ろした。

「ここなら西谷先輩もよく見えるね」

「わ、わざわざ言わなくていいから」

「お〜照れとる照れとる」

「試合は、はじまるよ!」

「はいはい」

動揺を隠しきれずにコートを睨む名前。そして、キュキュッとシューズ特有の音とともに、鋭いサーブが相手から放たれた。あんなに鋭いボール受けるなんて、怪我しないのかなと、自校の選手を見る。そこには、不安になるくらい小さな体が立っていた。そして、レシーブの体勢でボールを待つ彼に、名前は息を飲む。

「え、」

パァァンとボールが弾かれる音が、体育館内に響き渡る。あんなに鋭かったボールは勢いを殺して上に打ち上がった。周りの選手が彼の名前を呼ぶ。西谷、と。

「名前の彼氏取ったね!すごいよ、及川さんのサーブ取るなんて!」

興奮した様子で私の肩を叩く友人。しかし、名前は呆然とコート内を見つめるだけだった。

「あれって、西谷先輩、だよね?」

「え、そうだよ。あんなに小さいのにリベロなんだって〜」

スラッと背の高い彼を思い描いていた名前のビジョンが、ガラガラと音を立てて崩れ去る。別に彼の背の高さを好きになったわけではないのに、名前の頭には……裏切られたという思いが浮かんでいた。そんなことを思ってしまう自分が嫌で、持ってきた差し入れのタオルを握りしめる。

しばらくそうしていた名前。ふいにその意識を戻したのは、会場内の熱気だった。驚いて見てみれば、ネット際の攻防で放たれたボールが、西谷の横に落ちようとしているところだった。

「西谷先輩!」

頑張れ、そんな叫びが名前を座席から立たせた。西谷の小さな体が、ボールを掬い上げようと動く。そして、咄嗟に伸ばしたであろう右足が、ボールを拾い上げた。跳ねたボールが、西谷くんのチームメイトの手に渡る。……ボールは生きていた。

「〜〜ッ!」

声にならない感情が、名前を震わせる。視線は、まるで釘で打たれたように西谷を追いかける。隣にいる友人に袖を引っ張られるまで、名前はそのまま棒立ちになっていた。

結局試合は、かなりの接戦で……我が校が負けてしまった。あっけなく、全国への道は閉ざされてしまったが、会場は選手たちを労う拍手でいっぱいになった。

名前は鳴り響く拍手を背に聞きながら、走り出す。友人の制止を無視して、ギャラリー席の階段を降りた。そのまま真っ直ぐ、西谷の元へ急いだ。辿り着いた、コート横。人の波を掻き分けて、声を上げた。

「西谷先輩!」

「え、……名前!? 来て、どわぁ!?」

雪崩れ込むようにして、名前が西谷に抱きつく。少し背伸びしただけで手が届いてしまう彼の背丈が、いまは嬉しかった。首に回した腕にギュッと力を入れて、感情のままに声を上げる。

「すっごく、かっこよかった!です!」

「な、なななななな!?」

「私、いますっごく胸がドキドキして!ます!」

「ま、ままてお前こんなとこで!」

「大好きです、先輩!」

「もうやめてええええええ」

さらにきつく抱きつこうとした名前を止めたのは、絶叫。一瞬、西谷が言ったのかと思い、名前はガバッと体を離す。しかし西谷は、リンゴのように真っ赤な顔で首を横に振った。はて、では誰が? 視線を動かすと……烏野バレー部の皆さんが、西谷同様に頬を染めて、名前たちを見ていた。

そのうちのひとり、坊主頭の人が目を充血させながら、のたうち回っていた。……もしかして、だいぶ私は早まったのかもしれない。


140618 後半/完

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