幼い頃から、私の1日はそれはそれは優雅なものだった。ベットの上で寝返りをうち、記憶の中でも古い日を思い出す。
広い寝具の真ん中で丸まっている私を、使用人のヘルガさんが起こす。これが1日の始まり。その後、自室で食事をとる。その日の朝ごはんはスクランブルエッグがやわらかくって美味しかった。寝まきからワンピースに着替え、髪に櫛が通される。ベットの上でやってもらうのがお気に入りだった。上機嫌にヘルガさんを見上げると「お嬢様の髪は絹のようですわ」と微笑みを返された。いつもヘルガさんがすいてくれるからだと言うと、頭を撫でてくれた。窓から差し込むやわらかな日差しと合わさって、心地好い。すごく幸せだった。
お昼までは本を手にとり読書をした。まだ読めないような文は、廊下でお掃除中の使用人さんに聞いた。その日覚えた単語は確か「ぶりたにあ」だった。私のいる国は「ぶりたにあ」で、私は「ぶりたにあじん」なのだと。…この時から、そのことに疑問を感じていた。前に居たところは「ぶりたにあ」じゃなかったのにな…と。だが、使用人さんに頭を撫でられ、すぐに忘れていた。
お昼ご飯にはスープパスタが出た。「スープパスタだ!」とはしゃぐと、料理人さんはとても驚いていた。それから「お嬢様は本当に博識ですな」と言い、リンゴを目の前で剥いてくれた。リンゴは今でも私の好きな食べ物だったりする。その後は、お庭で日向ぼっこをした。たまたま薔薇の世話をしていた庭師さんが、葉笛の吹き方を教えてくれた。中々うまくいかないけれど、楽しかった。
夜はお父さんもお母さんも一緒に食事をとっていた。そこで、使用人さんが今日の出来事を話すのだ。これは今でも日課になっている。二人はそれを聞いて、嬉しそうに笑う。
「アテネは本当に賢いわね、将来は学者さんになるんじゃないかしら?」
興奮しながら話すお母さんを、お父さんが落ち着きなさいと注意をする。しかしその叱りつける表情も優しく崩れていた。
「学者さんは嫌だなー私、かんりょうになりたい」
──そう、私の夢は官僚になることだった。これを聞いた大人たちが目を見開き、顔を見合わせる様子は…傑作というか。今でも忘れられない。
「はやく大人になりたいなぁ」
これは、アテネ・ランベルティがまだ4才の頃の話であった。
120908 第一話:修正
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