07

全世界の視線が、いまここ、エリア11に集まっていると言っても過言ではない。テロリストの発言に水を打ったように静まり返る空気のなかで、アナウンサーの声だけが響く。

「なっなんということでしょう……ゼロと名乗る仮面の男が。いや、性別はわかりませんが…ともかく自ら、自ら真犯人を名乗って出ました!」

テレビをかじりつくようにして見ていたアテネは、液晶をつかむ自分の手が震えていることに気づく。腹の底が、熱湯がグラグラと煮え立つように熱くなっていく。息をすることも忘れて、ゼロを見つめる。頭全体を覆うようなマスクで隠され、その顔を見ることはできない。しかし、それでもアテネは仮面から目を離さなかった。

こいつが、真犯人。……いや、まだ決まったわけではない。脅しや隙をつくるために自称しているだけかもしれない。ただ確かなことはこの真犯人の浮上で、枢木スザクは裁判で優勢となるだろうということだ。この事実が、怒りに震えるアテネを冷静にする。

全世界の注目を集めるゼロは、まるで舞台のうえに立つ演者のような動きで、再び話しだした。

「イレブン1匹で、尊いブリタニア人の命が大勢救えるのだ……悪くない取引だと思うがな」

カメラはざわつく大衆を映し出す。彼らの関心は、突如現れたカプセルに注がれていた。いったいこのテロリストは、ゼロは、何を言っているのだ。驚くばかりであった人々は、対処に動かない軍へ不満を積もらせ始める。さっさと排除しろ、裁判を再開させろ。混乱と恐怖、苛立ちに満ちた空気を払拭するように、ジェレミアが叫んだ。

「こやつは狂っている! 殿下の御料車を偽装し、愚弄した罪……諍うがいい!」

ジェレミアが騎乗しているグラスゴーが銃を構える。毅然とした態度を見せているようだが、焦りが声にありありと現れてしまっている。その虚勢に、ゼロが斬り込む。なぜかその様は騎士のような気高さがある。

「いいのか? 公表するぞオレンジを」

堂々とした態度の裏には、自信を裏づける隠し玉があった。『オレンジ』という単語が果実を指すものではないとわかるが、それがなんなのかはわからない。

「私が死んだら、公開されることになっている」

画面越しに聞いていたアテネは、なにかが頭に引っ掛かっていた。ジェレミアと、オレンジ。2つの事柄からなにかが引き出されそうなのだが、思い出せない。たしかになにかあった気がするのに。そんな歯痒さを感じている間に、事態は急速に動き始めた。

なんと、あのジェレミアが身をひるがえすようにして枢木スザクの身柄を渡すように命じたのだ。

「ここからだとなにがあったのかわかりませんが、枢木スザクの拘束が、解かれるようです」

皇族派の中心的な存在として知られる軍人にあるまじき行動に、動揺が走る。それはもちろん、アテネのなかにも駆け巡った。幼少から彼を知るアテネは、特に驚きが大きかったのだ。

その後、ゼロの後ろに控えていたカプセルのパイプから赤い煙が噴出され、大混乱となった。せめてテロリストの首を取ろうと躍起になる軍だが、ジェレミアのグラスゴーに妨害され、さらなる混乱を招いていく。雪玉のように転がされて大きくなった狂気が終息したときには、枢木スザクはもちろん、テロリストの姿も消えていた。

番組のコメンテーターが、テロリストの正体や今後の動きについて、各々の見解を話している。アテネはそれを背に聞きながら、デスクへ駆け寄る。すでに何度も捲った紙を数枚前へ送って、見つけた番号を確認してダイアルを回す。

きっと枢木スザクは帰ってくる。なぜかそう確信して、アテネは動き始めていた。そして、この勘こそが『先見の』ランベルティと呼ばれる由縁であると、感じ始めていた。家名を呪ったはずの自分が、その運命を辿り始めている。

「───秘書室に繋いでください」

それでもいまは、それを信じたい。


140823 第七話/完
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