02

「こちらに」

「はい」

通されたのはそれなりに豪華な作りの客間だった。てっきり彼はただの騎士見習いかと思っていたが、どうやら見習いでもそれなりな家柄のようだ。まだ17、8くらいだろうか…救急箱を用意する彼の横顔をじっと見つめた。

「本当に、申し訳ない」

「え?」

いつの間にか彼は消毒液とガーゼを片手に私の正面に来ていた。

「顔に怪我、更には髪まで……失礼」

「…ん」

頬にガーゼが当てられる。ピリッとした痛みが私を襲う。目を伏せて、彼の腕から彼の洋服のベルト辺りまでゆっくり視線を落とした。男の人だ。よく考えてみれば、彼は人生で初めてあった他人男性だ。記憶にしかなかったが、そうかこうにも女とは体格が違うのか。

「……しかし、本当に、先程の、…その…あれは…悪気も下心もなかったのだ…」

「……?ああ、大丈夫です。あんなことされたのは本当に初めてでしたが…ふふ」

思い出したら、なんだか笑えてしまった。どれだけ動揺していたのやら。私が笑ったのを見て、安堵したのだろう。青年は短く息を吐き、手を離した。

「そうだ…後日、改めてお詫びをさせていただきたい。お名前をうかがっても?」

そうだった、まだ名前すら告げていなかった。アテネは少しだけ短くなった髪を指先ですうのをやめて、居住まいを正した。

「アテネ・ランベルティと申します。あ、でもお詫びだなんて…気になさらなくても大丈夫ですからね」

苦笑しながら青年を見る。青年は、ガタンッと救急箱を机に落とした。

「ラララララ…ランベルティ……!?」

な、なんだ。どうしたというのだ青年。真っ青になったり真っ赤になったり。表情が忙しく変わる。そして、

「数々のご無礼、誠に、誠に…誠に申し訳ありませんでした…!!」

どこからそんなに大きな声が出るのかと驚くほどに、彼は叫び跪いた。

「……えっと…?」

これはなにが正解になるのだろうか。わからない。とにかく、顔をあげてほしい。

「私はジェレミア・ゴッドバルト…ゴッドバルトが嫡男でございます」

泣いているのではないかと思わせる声色が届く。しかしゴッドバルトって…あの、名門貴族のだろうか。なるほど、確かにランベルティの方が数段か地位は上だ。彼も名門貴族だからこそ、身分違いを理解して、震えているのだろう。

「いかなる処罰もお受けいたします。誠に、誠に……!」

彼の頭では今、走馬灯のように私との会話が巡っているのかもしれない。しかし、そんな…処罰なんて考えたこともないし…。困った。

「あのですね、処罰と言われても」

「いかなることもこの身で償えるのであれば!いかなることも…!」

「……。」

だめだ、このままでは自害までしてしまいそうな様子である。ではどうしたら…。

「あ」

「…!」

ひとつあった。とっておきなお願いが。これしかない。思わず、にやっと表情が崩れる。それを空気で察したのだろう、ジェレミアはびくりと肩を震わせた。

「ジェレミア・ゴッドバルトさん…」

アテネの視線が、ジェレミアを捉える。一歩足を踏み出し、しゃがむ。

「私の、勇者様になってください」

「………ゆ、…しゃ…さま?」

口にしながら、ゆっくりと、ゆっくりジェレミアは顔をあげた。

「はい、私の勇者様になってください」

ユーフェニアちゃん、私、ようやく貴女に会いに行けそうです。


12???? 第二話/完
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -