If FGO2

一触即発の雰囲気で満たされた部屋から連れ出されてやってきた、医務室。そこにいたロマンと呼ばれる男性に事情を藤丸さんが伝えると、召喚された私がこの世界のことを聞いてきたことに、驚いていた。どうやら召喚されたサーヴァントは、その際に世界の情報がインプットされるものらしい。

「なにか思い当たることはあるかな?君がどんな英霊なのか……えーっと、つまり君の記憶が知りたいんだ」

そう言われて、思わず警戒した。話しても信じてもらえるかわからないし、それで私の身のふりがどう変わるかもわからないからだ。そのことをそのまま伝えると、それはそうだよねと柔らかい笑顔が返ってきた。

「まずはこちからの世界の説明と、自己紹介をさせてもらうね」

その説明は、これまたすさまじいものだった。聖杯、特異点、人類の滅亡……。そしてサーヴァントという存在について。神話に出てくるような人も召喚されるらしい。うーん、それなら私の話をしても大丈夫そうだ。似たようなものだし。いや神話の神々と並ぶ存在だとは思わないけどね。

「で、僕はロマニ・アーキマン。みんなにはロマンって呼ばれてるよ。さあ、どうかな?君の信頼に足る話をできたかな?」

不安そうにこちらを見てくる、ロマン。横で様子を見ていた藤丸さんも、心配そうにしている。ダ・ヴィンチさんはニコニコと笑いながらこっちを見てる。ちなみにタケルはこの部屋にいない。一度話をまとめてからの方がいいだろうと、退出したのだ。だいたいタケルが主人公みたいな展開が多いし、今頃姉が現れたことでなにかしらのイベントが発生してるんだろうな。「タケルのお姉さんなら、将来俺の義姉になるんだよな……」「ばっバカ!」みたいな。人をダシにいちゃいちゃすな。

ふう、とため息をつく。ま、いつものことだ。今回も受け入れよう。タケルが無事ならそれでいいんだから。

ロマンに視線を戻し、へらりと笑う。


「私、この世界の人間じゃないんですよ」

「!」

「話すと長くなるんですがね、実は……」


そこから、私の終わらない物語を話した。どんな世界に行ってどんなことがあったのか、タケルという存在、ただタケルが無事ならなんでもいいという思い。それを黙って聞いていた3人は、話終わる頃になって息を吐いた。話が突飛すぎて息を詰めて聞いていたのだろう。

「とはいえ英霊になるようなすごいことをしたわけでもないんですがね」

「いや、あくまでも僕の見解だけど、世界を渡り続けた君は様々な世界で存在をつくったことで、ある種の概念的存在になったんじゃないかな。それで、今回この世界で、サーヴァントとして召喚された。……ここでは、概念や伝説の存在でもサーヴァントとして召喚されるからね」

概念……。いまいちピンとこない。

「でも、この世界の存在ではないから、情報がインプットされなかったんじゃないかな」

うーん。なんとなく、わかったようなわからないような。首を傾げていると、ダ・ヴィンチさんがハッハッハッと高笑いをする。

「意味がわからずとも、君は召喚されるべく召喚された。それがわかったのだから、とりあえずよしとしようではないか」

確かに、これまではなぜその世界に来たのかや、やるべきことがよくわからなかったが、今回は違う。きちんと私のことがわかる人、理解できる人がいるのだ。

「そうですね、今まで誰にも言えなかったし理解もされなかったから……すごく、うれしいです」

「うんうん。ここには君を特殊と見るような者はいないから、安心したまえ。そこで、どうだろう……君の名前を聞かせてくれないか?」

「……郁です」

「郁さん、……本当に、大変だったね。俺のところに来てくれてありがとう。改めて、言わせてくれ。これから、よろしくお願いします」

藤丸さんが、くしゃりと笑ってこちらに手を差し出す。私はそれを握り返して、小さく頷いた。



◇◇◇



話が落ち着いたところで、一先ず食事を食べに行こうということになり、今は食堂に向かっている。今は夕食の時間帯らしい。小腹がすいていたところだし、ありがたい。ロマンさんとダ・ヴィンチさんは仕事の続きがあるからと、医務室で別れた。

「この世界のことわかるために、一通りのことはしてもらった方がいいね。食事に睡眠、それとレイシフトも。明日またロマンたちに話してみよう」

「うん」

「エミヤのごはんは本当に絶品だから、郁さん期待してて」

エミヤ、って誰だ。食堂のおばちゃん?よくわからんが飯がうまいならなんでもいい。なんでもいい。なんでも…………。


「イケメン……」

イケメンが厨房で中華鍋をさばいている。エプロンつけてイケメンが料理してる。たしかになんでもいいとは思ったけど、こんなイケメンとエンカウトするとか心の準備できてませんが。

「エミヤ〜今日ごはんなに」

「今日は中華を中心に作ってある。小籠包ができたてだから、ぜひ食べてみるといい」

「わ〜。ね、郁さんは中華大丈夫?」

「うん……」

話振らないで!?タケルかお前……!
すると、イケメンはちらりと私の方を見て中華鍋を置いた。あ、これしっかり話す感じね。そういう流れね。

「マスター、そちらは」

「あ、さっき召喚したばかりの新人さん。タケルのお姉さんだって」

「ほう……。よろしく頼む」

すっ、と出される片手。

「よ、よろ……す」

言語が。言語レベルが著しく低下してる。それでもなんとか手を握り返して、離す。イケメンイケメンイケメンイケメン……。イケメンの手を握ってしまった。めちゃくちゃ心臓バクバクする。

「じゃあ俺、天津飯と小籠包と〜玉子スープにしよう」

そんな私の様子を尻目に、藤丸さんは上機嫌に料理を取り始める。バイキング形式のようだ。エミヤさんに軽く会釈をして(目は合わせない)、私もそれに慌てて続く。

あ〜焦った。とにかく早く食事を済ませてここから退散しよう。そう決意して、ほくほくと湯気をあげる小籠包に手を伸ばすと……。

「雑種、貴様それは我のものぞ」

すぐ後ろから、殺気と共にそんな言葉が聞こえ、慌てて振り向く。あ、しまった。殺気を感じたことで、無意識に回し蹴りを繰り出してしまったのだ

「っと、すみません……!」

相手の頬ギリギリで止めて、体勢を戻す。ハラリ、と金色の髪が数本床に落ちる。どうやら回し蹴りの風圧で髪が少しだけ切れてしまったようだ。恐る恐る相手を見ると、これまたとんでもないイケメンだった。金色で赤い瞳の、美人系イケメンだ。

「き、き、……貴様ァァァァァ」

しかもめちゃくちゃ怒ってる。そして殺気が足元からぶわっと立ち上っているのがわかる。肌がピリピリと痛み始めた。あ、これ死ぬ。

「ギルガメッシュ……!」

藤丸さんが焦った様子で止めに入ろうとするが、それを手で制す。普通の人間だったらヤバイやつでしょこれ……!

「消える覚悟はできているのだろうな」

「本当にすみませんでした!」

「許さぬ!」

彼の後ろに水面の波紋のような金色の円が現れ、そこから剣を抜き取る。おは〜〜〜〜!とんでもないことになってるこれ!本気で防がないとやばそう。えっと、えっと、剣だから……立体起動装置……!

腰に手をやると、それまで存在しないはずだった2つの刃が現れた。よくわからんがありがてえ!素早くそれを両手に構えて、剣撃を受ける。ブワッという衝撃波と金属同士がぶつかる甲高い音が響く。……なんとか受けきり、わずかに上体が後ろに傾く程度で抑えることができた。

「あっぶなぁ」

「フンッ」

再び相手が構えるが、室内のライトや柱にワイヤーを飛ばし、ひと瞬きのうちに相手の後ろについて刃を首筋へ当てる。そして誠心誠意、叫ぶ。

「土下座して謝るので許してください!」

「な、なんだと?!」

「土下座して謝るので許してください!!」

動揺した様子だったので聞こえなかったのかもしれない。もう一度高々とお願いすると、沈黙が訪れる。な、なんだろう……考えてるのかな。

「郁、さん……あの……」

口を開いたのは、藤丸さんだった。

「とりあえず、ここ食堂だから……土下座はやめよう……あと、ギルガメッシュ……小籠包はこっちにもあるから、食べて。でないと……令呪使うからね」

「……はい。すみません……」

「……」

刃を腰元に戻して、美人系イケメンから一歩離れる。怖い。美人が黙ってるのめちゃくちゃ怖い。恐々と藤丸さんの元に移動する。

「あとさ、郁さん……その格好はちょっと……セーラー服にそれは……」

「といわれても」

セーラー服に絡む立体起動装置を見下ろすが、これを消す方法がよくわからない。見苦しいですよねすみません。しかもこれあるとガチャガチャいって煩いし席についてごはんも食べにくいから……て、あれ消えた。

これでご飯食べられるな〜とお盆を手に取ると、後ろからまた恐ろしい言葉が聞こえた。

「貴様、必ず殺す」



怖い。


171112

拍手でいただいたエミヤ、ギル出してみました。ありがとうございます!次もまたリクエスト応えられるよう書いていきます〜。
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