「立海大附属!?」
違和感を感じてから5日目、郁はついにものすごい事実を知った。そして、我ながら鈍いなと感じた。なんと、なんと……タケルがあの、立海大附属中学に通っていたのだ。そして冒頭のリアクションである。あまりの衝撃に、まず驚いたのはここが神奈川県だということだった。
そんな私を冷たい目で見るのは、タケル。まあ、確かに自分の体操服を凝視された上に自分が通っている学校名を叫ばれたらそういう反応したくなるよね。あれこれあたし変人に思われてるの?
「なんでそんなに驚いてるんだよ…。姉ちゃんの学校に合わせて俺立海大にしたじゃないか」
まじで?
そんな記憶は当然ない。むしろそんなことになったら「お前いい加減ジャンプ脳から離れろ」と言っていただろう。ということは、どういうことだ。わからない。
ただ、タケルはテニス部じゃなくて写真部だったし、学校の制服はブレザーじゃなくて学ランだったことは私の記憶違いではなかった。それは確かなわけだ。
ん?じゃあなんで私の周りは変化ないの?普通に、今まで通りの制服と高校に通っていたし友人にも代わり映えはない。まるで郁の周辺だけをスプーンで掬って、器を変えられたような気分だ。
「いい加減体操服返せ」
「あ、ごめん」
催促されたので、とりあえずタケルに体操服を返す。手を離れていった体操服を見ながら思う。洗濯物を畳んでいた母に「タケルに渡してきて」とあれを受け取らなければ、自分はあと1カ月はこの事実に気づかなかっただろう。
……これって、異世界にワープしたのか。大分冷静になってきた頭が出した答えは、かなり異様なものだ。それにしても、神様が出てきて特殊能力とかつけられるとかそういうわけではないのか。今まで気づかなかったのも、今なお全く実感が持てないこともそのせいだと思われる。そしてキャラクターたちを見るまでは、信じられないだろう。
その辺は徐々に実感していけばいいか。悩んでも仕方ない。いまのところ郁が出せる最良の答えは、そんなところだった。
「タケル、立海大のテニス部の、レギュラーなんだっけ?」
「…さっきから何だよ」
「レギュラーなんだっけ?」
「一応レギュラーです!!」
肩を震わせて背筋を伸ばすその様子は、やはりただのタケルだ。でもレギュラーって……え?つまり?あの人外たちと渡り合ってるの?スペックだけ異常に高くなってないか。
「奥の手的な存在(補欠)だけど……これも前も言ったよな。何回も確認すんなよ。傷つきやすい年頃なんだぞ」
「タケルがレギュラーって、そもそも球打てるの?立海レベルで?」
「耐えろ俺」
これっておかしくない?トリップした私じゃなくて弟のタケルがキャラクター設定増えてるってことだ。別に最強美少女になりたいわけではないが、納得がいかない。
「まさか、この間の校門で帽子被ってたのって」
「だから…騒がれるんだって」
「こっちの女の子って目くさってんの!?」
「決定打!俺に対してさっきから失礼なんだけど!あと俺だって、普通以下の俺にだって一応ファンいるから!」
「なんだ、大穴狙いの子か」
「‥‥。」
よかったこっちの美的感覚を疑ったが、元の世界とそう変わらないようだ。周りの部員達がイケメンすぎて「タケルくんって、普通なとこがいいかも!」というノリのファンが数多いるであろう私の弟、タケル。とりあえず私が彼に言えることは
「今度レギュラーの写真撮ってきてよ」
「もう…姉ちゃん…出てけ…」
09???? どうやら…/完
140213 修正
×