04

窓の外では、どんよりとした分厚い雲が広がっている。いまにも泣き出してしまいそうな空だ。壁の外の探索が朝だとすれば、いまは昼頃か。いや、タケルから引き剥がされて連行されるとき、タケルが「腹へった」とか言ってたから……もしかしたら、もう夕方も目前なのかもしれない。とりあえず、ダメもとで聞いてみよう。

「いま何時ですかね?」

「ほう……尋問の最中に、質問か」

投げかけた質問は、目の前の男によって握りつぶされた。期待はしていなかったが、ひどいものである。尋問だなんて、まるで犯罪人みたいではないか。悪人面のお前の方が尋問されるべきだろうという言葉が出かかるが、飲み込む。

「一応、正直に話してるんですが……」

お前はどこから来たのかと言われれば、"内地"の家からと答えたし、なぜ壁の外にいたのかと聞かれれば、探検と腹ごなしがてらだと素直に伝えた。にもかかわらず、このふてぶてしい男は私の座る椅子を蹴り飛ばした。そのせいで、いまは立ちながら話をしている。よく考えたら、これも拷問の一種だよね。普通の婦女子だったら小鹿ちゃんの脚になっている頃だろう。じろりと非難する視線を男に投げるが、男は悠然と脚を組んで郁に何度目かの問いを繰り返す。

「お前は、何なんだ」

「……ちょっと身体能力が高い、市民」

「あの砲丸投げを見て、信じる奴がいるわけねぇだろ」

たしかに、正論。でも別の世界からきましたなんて言ったところで、信じてもらえる自信もないし、信じてもらおうとも思わない。この世界にはタケルがいて、私が存在した記録もあるのだから。いまはとにかくこれで通すしかないのだ。

「埒が明かねぇ……」

部屋のなかには、男が机を指で叩く音が響く。すごく苛立ってるなこれ。人相が悪いから、余計に怖いよ。でもあのタケルの上司ってことは、こいつも要注意人物に違いない。できるだけ当たり障りのない態度をとらなければ。

この対応が、リヴァイの機嫌を更に悪くしていることに、郁は気づかないのである。このままただ日が傾きつづけるしかないのかと思われたそのとき、ある気配が近づいていることに郁は気がついた。徐々に近づいてくるこの足音……踵を鳴らし、爪先に滑らせるような、この歩き方は。少し前に聞いたことがある。あれはたしか、この世界に来たばかりの……。

───その答えは、部屋の扉が開かれて証明された。

「やあ、調子はどうだい」

「……調子もくそもねぇよ」

「おやおや」

意思の強そうな眉は、不安に震えて立ち尽くしていた私に声をかけてくれたあのときと変わらず、困ったように下がっていた。ひとつ違うところがあるとすれば、彼が纏う空気だ。腹の底にずっしりとくるようなこの緊張感は、クロロが時たま放つそれに似ている。

「郁さんだったかな、タケルのお姉さんの」

「は、はあ」

「君に私が言いたいことは、ただひとつだ」

「……はい」

「タケルは、私たち調査兵団の一員として、これからも巨人と戦わなければならないよ」

「……」

やだ、この人怖い。

郁は、目を細めず微笑むこの男が自分になにを求めているのかを一瞬で理解した。タケルは、これからもあの巨人たちと戦う。……つまり、あの戦闘能力を持っておきながら"調査兵団"に協力しないというのはタケルを見殺しにするようなものだ、と。立派な脅迫だけど、この人は事実しか言っていないし、死ぬとも明言していない。ただ、まぁ……えりあしが弱点って分かっておきながらあの様子だから、死ぬのはかなり濃厚だよね。タケル、あんた人質になってるよ。ヒロイン決定じゃねーか。

「どうする?」

「……どうするもなにも」

選択肢なんて、あってないようなものじゃないか。郁は両手を上げて「参りました」と白旗を振った。その様子を見た男は、今度こそ目を細めて笑んだ。

「ありがとう、人類を代表して礼を言うよ」

いや、私も人類です。

「そういえば自己紹介がまだだったね。調査兵団13代団長、エルヴィン・スミスだ」


団地、王……? ていうかそもそも、チョウサヘイダンってなんだろう。よくわからないことだらけだけど、家帰ったらタケルに聞いてみよう。立ちっぱなしで疲れたから、椅子にして。もちろんタケルを。


140812 第四話/完
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