プルルルル
家の中に、電話のコール音が鳴り響く。その音源は郁が座っているソファーからすぐ近くであった。めんどくさがりな郁は、こんなに近くにいながら誰か取らないかと辺りを見回す。しかし頼みの綱であるタケルは今入浴中だし、母さんは確かスーパーへ買い出しにさっき出掛けたはずだ。そして父は休日出勤。……つまり、私がこの電話を取らなければならない。これだけ放置していたにも関わらず、依然鳴り止まない電子音に手をかける。
「…はい、もしもし」
これで勧誘とかだったら問答無用に切ってやる。もう真剣ゼミの長電話の二の舞にはなりたくないのだ。注意しながら耳に当てた受話器から、声が返ってくる。
「夜分遅くにすみません」
聞こえてきたのは、なんと爽やかで中性的な少年の声だった。予想していなかった事態に、肩透かしを食らった気分だ。
「タケルくんと同じ部活の幸村と申します…えっと、タケルくんいますか?」
テニス部の幸村…?郁の頭に「神の子」とか言われる人が思い浮かぶ。……私もだいぶ末期なのかもしれない。そんなわけないだろと頭を振って、切り替える。
「すみません、タケル今お風呂入ってて」
「そうですか…」
「はい、伝言でも……いや、ちょっと待って下さい」
郁の耳が風呂場の扉が開いて、タケルがタオルを使っている音を拾った。相手の了承を受けてから、受話器を横に置いて、洗面所の扉を開く。そこには、濡れ鼠のようになったタケルが。ヒョロヒョロの上半身を晒し、下半身にトランクスをひっかけながら郁と視線を交えた。
「タケル、電話」
特に反応もせずに郁がそう言うと、意識を取り戻したらしいタケルが上半身を両手で隠すようにしながら「ぎゃああ!」と紙を引き裂くような叫び声を上げた。
「女子か。電話よろしくね」
これで一仕事終えたな。ちょうどテレビにも飽きていたし、私もお風呂に入ろう。部屋へ下着を取りに、郁は階段を上がり始めた。
「もしも、……部長」
背中ごしに聞こえてきた会話によると、タケルが無事に電話に出られたようだ。へえ、あの爽やか少年は部長だったのか。それってもちろんテニス部の、だよね。それで幸村ね……。郁は、やはりある人物に思い至る。ありえない。だってあれマンガだし。
◇◇◇
郁がお風呂をあがると、電話をし終えたタケルがリビングのソファに座っていた。気のせいか、なんだか物凄く暗い。
「ど、どうしたの?」
「いや、ちょっと電話で精神力………使って」
「精神力?」
やばいこいつ中2に磨きがかかってる。そのうち念とかチャクラとか練り始めちゃうじゃないか。姉ちゃんは心配だよ。
「そうだ、明日…帰り遅くなるから先に帰っていいよ」
「そ、そう」
なんだかよくわからないけど、とりあえずそっとしておこう。中2的なあれは誰かに言われたところで黒歴史に更なる傷跡を残すだけだから。郁は静かにリビングの扉を閉じた。
09???? 気になるテレフォンコール/完
140213 修正
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