05

外の寒さも入ってこない、明るく快適なコンビニ。最近は心も暖めてくれるらしいね。店内には、おでんや肉まんが並び、もう冬なんだなぁとそれらの商品を眺める。しかし、まあ…私のお目当ては季節感も食欲も沸き立たない商品なのだが。

この店に入って既に、時計の長針はてっぺんからその真下へ移動している。そして店員の目には鋭さが宿っていた。その熱心な視線に、心が暖まるどころではない。

……お気づきの人もいると思う。そう、私はまた罰ゲーム任務を遂行中なのだ。つまり、この状況を味わうのも二回目というわけである。郁は、自分の運のなさに呆れながらも、腹を決めた。商品を手に持ちレジに向かえば、やはり店員は「悩んで悩んで買うのそれなんですか」なんて視線をぶつけてきた。そんな中でも、私は言わなくてはならない。あの一言を。

「お箸、つけてください」

「………も…申し訳ございませ…不要な割り箸ご利用は…」

「い、いえ、食べるんで!」


この時に見た店員の顔を、やっぱり私は一生忘れないと思う。


「…ありがと、ございました」

動揺を隠せないままの声を背に、店を出る。これ絶対ツイッターとかで「ちょww今ww」みたいなノリで拡散される。

「…このコンビニにもこれなくなってしまった」

それもこれも、この任務を指令した奴が悪いのだ。前回も今回も…。まあ、私だけどね!自分の悪運の強さはわかっていたが、やはり誰かにこの罰ゲームをさせたかったのだ。次は負けないぞと、胸を熱くしていた郁だが、肩に加わった力に気付き、振り返る。そこにいたのは、……

「やはりお前か」

「え!…絶してたんだけど俺…絶してたよね…?」


我が弟、タケルだった。よくわからないことを口走っているのは、放置として。未だに肩に置かれたままの手を、バシンと叩き落とす。

「ぎゃー!!!折れたーー!!!」

騒ぎ出すタケルに呆れたまま、郁は素早く辺りを見回した。以前の教訓を活かしての行動だ。

「……ん?」

そして、タケルの一歩後ろに鼻筋の通った長身のイケメンを見つけた。なんか、面白いピアスしてる。
一応年上だろうし、一度会釈をする。それに対して、相手は人好きしそうな笑顔を返してきた。

なにこの半端じゃないイケメン。思わず足元がふわふわしてしまうほどに、すっかり浮かれ調子の郁。それを撃ち落としたのは、やはり弟のタケルであった。

「なんか……それ、キャットフードに見えるんだけど」

見れば、タケルの視線は郁が腕に引っ掛けているレジ袋に釘付けになっていた。

「しかも…なんで箸?」

「……」

もうお前黙れ。眉間にシワが寄りそうになるのを、なんとか抑える。イケメンさんもしげしげとビニール袋を眺めだした。

「まさか食うの!?」

「何で先にそっちの発想するのかな!?食べないわ!!」

「タケル、流石にそれはないだろ…」

「いやだってクロロ…キャットフードに、箸だよ…?」

イケメンさんも変な印象を持たないでいてくれたようだ。良かった…初対面でキャットフード食べる人間とか思われなくて良かった。

「あ、じゃあ…」

期待が込められた二対の瞳が、妙に笑顔な郁を捕らえ、瞬く。

「猫は飼わないよ、ただの罰ゲーム」

「………そうですか」

やられる前にやれ、先手必勝である。心なしか、犬の時よりも衝撃が強かったように見える。しかしまあ、どうでもいい。なぜならば郁は今、それよりも気になっていることがあるのだ。

視線は正直なもので、ついついそれを見てしまう。見ていることに気づかれないよう、もう一度様子を窺う。

「話すのなら、どこか店に入らないか?」

うっは、横顔も!麗しいです!
……じゃなくて。

「いや、大丈夫。待たせて悪いな」

「構わないさ」

会話を終えた二人。終えた……と言うのにも関わらず、二人の肩は未だに触れそうな距離を保っていた。距離、近くない?しかも気のせいかもしれないしそうであって欲しいのだが。クロロさん常にタケルの後ろに立ってますね?ピッタリと。

………こ、これは

「じゃあ、俺このあと用事あるから行くね」

「用事…」

いやいや考えすぎだよね?タケルは女の子が好きだよね?いかがわしい本持ってるもんね?必死に自身を保とうと自問を重ねる。どうしよう色々とショックでキャットフードとかどうでもいい。混乱の渦にハマり、揺れそうになる頭を傾げながら、郁はクロロを見上げる。

「タケル、お借りしますね」

ニコッ

目が合った瞬間、川超シェフもびっくりな爽やか笑顔いただきました。こいつやっぱりイケメンです。そしてホモだ。

顔面偏差値甘く見ても55なタケルにしては、イケメンすぎる知り合いだなと思ったが……なるほど。おそらく彼は、ハンター主要キャラの家庭教師的な立ち位置のオカマ枠イケメンだ。テニスにしてもハンターにしても、相変わらず夢主人公まっしぐらな子のようだ。普通、記憶のある私が、その役なんだとは思うけど……それについては、前回の世界で散々思ってきたし。もう気にしないさ。

考察も一段落して意識を戻すと、既に二人の背は小さく見える程になっていた。左側、歩道を歩くタケルのお尻が、郁は猛烈に心配になってきた。

とりあえず、この罰ゲーム終わらせたらタケルのいかがわしい本を探そう。……女でありますように。いつの間にか長くなっていた自身の影を踏み、郁は学校へ急ぐのだった。


121211 第五話/完
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