02.5 番外編

タケルの部屋は、そこまで広くはない。ベッドとタンスが置ける程度の横幅しかない。タケルは、布団が2枚敷き詰められている自室を眺めながら、なんでこんなに狭いんだよ……と、ため息を吐いた。

子供部屋をそのまま使い続けているから。というのがそれの答えであることは十分承知しているが、やはり納得はできない。特に、郁の部屋がタケルの部屋の倍はあることが納得できなかった。

いっそのこと、幸村にはねぇちゃんの部屋で寝てもらうか……。割りと本気で考えながら、左手に持ったままの来客用枕を眺めるが、すぐにそれを布団の上にセットする。不可能だしな。絶対。

そこで、タケルの耳はドアノブが捻られる音を拾う。カレンダーを吊り下げた扉がゆっくりと開き、幸村が部屋へ入ってきた。出ていったときに持っていた入浴剤が手にないということは、無事に郁へ渡すことができたのだろう。

「おかえり、幸村。迷わなかった?」

「ん、ああ……大丈夫」

幸村は抑揚のない声で返事を返した。幸村には珍しく、どこか上の空な様子だ。いつもであれば、にこりと笑うものだが……なにかあったのだろうか。

「幸村……元気、ない?」

なにかあったか、と暗に聞いたつもりだ。おそらく幸村にもそれがわかったのだろう。少し悩む様子を見せて、タケルに微笑を返す。

「いや、タケルのお姉さんって、いい人だなって思って」

「……は?」

聞き間違えかと思う暇もなく、タケルの口から間の抜けた声がこぼれていた。瞬きを何度も繰り返し、幸村の穏やかな微笑みを見つめる。

「俺も姉がほしかったなぁ」

思考が停止したままのタケルをよそに、混乱の張本人はベッドに腰かけた。タケルはそれを目で追いながら、ゆっくりと幸村の言葉をろ過させていく。

「さて、明日も朝練があるから早く眠ろう」

「あ、え?……はい」

大混乱のまま、タケルは床についた。そしてまんまとベッドを盗られ、自分が雑魚寝していたことに気がついたのは、朝練が終わったときだった。


130717 お泊まり番外編
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