「へ?」
白石が驚いた顔をしてみせた。一方、俺は悪戯が成功したかのような気持ちでニッと笑ってみせる。
「驚いたろ?俺も昨日びっくりしたんだけどさ」
「そら驚くわ。てかめっちゃすごない?」
姉ちゃんが謙也の確保をした人物だと聞いた白石は、始めこそ驚いていたが今では目元を緩めている。
「上手くいけばタケルの姉ちゃん見れたんやな、惜しかったわ」
「あれ、見てねぇの?」
「んー、俺が謙也迎えに行ったときにはもうそこに居らんくてな」
白石は残念そうに笑ってみせた。そうか、姉ちゃんは見てないのか。まあ、幻想を壊さないままでよかった。
「でもお礼とかいいって姉ちゃん言ってたからさ、気にしなくていいからな」
「ホンマに?いやでも、せっかくタケルの姉ちゃんやったんやし。お礼くらいは…」
にこりと綺麗に笑う白石に、タケルの頬はひくりとひきつる。この食いつきよう、わざとらしい笑顔。
「……お前、それただ俺の姉ちゃん見たいだけだろ」
「ん?タケル、誰か呼んどるで」
「は?」
突然変えられた話題についてゆけず、とりあえず白石の指差す方へと振り向く。体よく話を反らされたことに気づくこともなかった。それよりも、自分を呼んだ相手が気になる。幸村じゃありませんように!幸村じゃありませんように!
「タケル、お前なにしてんだよぃ」
「……ブン太か」
よかった。安堵から、力を抜く。というか、俺はどんだけ部長に恐怖しているんだろうか。計り知れない。
「あ、んだよせっかく話しかけに来たのによー」
安全と確認して溢れた俺の台詞に、違う解釈から機嫌を悪くしたらしい。まあ、こいつが怒っても一切怖くないからいいんだけど。
「タケルの姉ちゃんの話しとったんよ」
前からの台詞にふっと視線をやると、白石はまた人懐っこそうな笑顔をみせた。姉ちゃんがみたら発狂しそうである。
「タケルの姉ちゃん?あードックフードの姉ちゃんか!」
いや、合ってる。合ってるけどさ人の姉ちゃんの印象がそれなのかお前…!
「自分知っとるん?てか…ドックフード?」
「あー!」
ブン太が話す前に遮るように声をあげる。
「ちょっと話したことあるんだよな!な!」
ドックフードの姉ちゃんだなんて印象を植えつけさせらんねぇ…!と焦ってすかさず続ける。するとブン太は驚きつつも口を開いた。
「…って言っても会ったことがある程度だけどな」
ブン太が頭の後ろで手を組んでそう言うと、白石は「へぇ」と楽しそうな声をもらした。なんだかまた姉ちゃんの話題が広がりそうな予感がしてきた。
「あーもう、ブン太お前どうせ俺に話しかけに来ただけじゃないだろ」
「……別に」
「いや受け答えが不自然すぎますよお兄さん」
話題をすり替えてほっと息をつく。白石はどうなのだろうかと視線をやると、
「謙也のやつにも言うとくわ。そのくらいはええやろ?」
にこりと爽やかな笑顔を添えてそう投げかけられた。俺は謙也だかってやつに会ったことがないからなんとも言えないが、姉ちゃんのバイト先に行って殴られた時の二の舞にならないよう姉ちゃんには黙っていよう。
「なぁタケルー」
ブン太にガクガクと体を揺らされながら、そう心に決めた。それにしても、俺を揺さぶるこいつは何がしたいのか未だに謎だ。
「今日のプリンくんね?」
「やらねーよ!!」
「なんや今日プリンなんか」
100803 ドックフードの姉貴/完
121113 修正
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