「あ」
郁は、膝の上に置いたお弁当箱をじっと見つめる。向かい側でサンドイッチを頬張っていた友人は、もそもそと口元を動かしながらどうかしたのかと郁に問う。
「このお弁当、タケルのだ」
「あ、ほんとだ。いつものと違うね」
「…うっわーどうしよう」
「食べちゃって大丈夫でしょ」
「違うんだよ、千鶴」
「?…違うの?」
郁の表情に悪どい感じの色がつく。友人である千鶴は、郁が言わんとしていることをなんとなく理解した。
「タケルがあの、あのファンシーなお弁当食べるとか…写メ要求しないと、今すぐに!」
素早くポケットから携帯を出し、音速でメールを打つ。送信。全てをやり終えた郁は、ついにゲラゲラと笑い始めた。
「メール来たらあたしにも見せてね」
千鶴はサンドイッチを完食して、笑顔で言った。
◇◇◇
タケルは眠りたかった。出来れば昼休みが終わるまで。これは、なんとか昼休みを乗りきりたいというタケルの祈りだ。
「タケル、お前飯食わねぇの?」
早くも弁当を食い終えたらしいブン太は、タケルが未だ弁当を袋から出さないことに気づいた。
「…まだ食欲ないんだよ」
「早くしねぇと俺が食っちまうっスよ!」
「触れたら殺す」
「ひぃ!?」
タケルの精一杯の威嚇に、赤也は一発で引き下がった。コレを皆の前で開けられるわけにはいかない。「ぶっふー!なにお前これキティーさんのウインナかよ!しかも占いつきグラタン!!」に、なる。…絶対。くっそ、なんで今更気づいたんだ俺。そしてなんで姉ちゃんの弁当はこんなにファンシーなんだ。
「ふふ…」
幸村はそれまでブン太とタケルの掛け合いを、ニコニコと笑顔で大人しく眺めていた。そしてその表情のまま言った。
「ブン太にあげたくないような、美味しいオカズがあるのかな?」
「い、いやないから」
「慌てるのが更に怪しいっスよ〜、先輩」
「ブン太、本当みたいぜよ」
「まじかよい!?ずりぃぞタケル、お前のモンは俺のモンだろ!」
「ぎゃー!!」
仁王のまさかの煽りについてゆけず、タケルは生命線である弁当箱をブン太に易々と奪われてしまった。
「ぶっふー!なにお前これキティーさんのウインナー!?しかも占いつきグラタンとか!!」
「……」
俺の予想と一致した台詞をそのままぶつけられる、苛立ち。
「タケルは何か病気か?」
「柳、それは酷すぎるんじゃないか」
「すまん、幸村」
幸村はフフフと口先で笑ってみせる。もう嫌だ…早く昼休み終わってくれ。
「タケル、携帯光っちょるぜよ」
「ん?…て、勝手に開くなよ」
タケルが振り返ったそこには、我が物顔で人の携帯をいじる仁王がいた。仁王はタケルを完全無視の方向でスッと立ち上がり、弁当から距離を取る。パシャリと携帯が鳴り、そのまま携帯を閉じた。
「ん」
「いや、ん。じゃねぇから。何したのお前」
焦りながら履歴を見ると、見覚えのない姉宛ての添付メールがあった。
◇◇◇
「あ、メール来た」
「添付は流石にないでしょ」
「あるね」
「…案外タケルくんも乗り気なんだね」
「うーん…」
その言葉に、郁は首を傾げる。タケルの性格だと絶対添付しない。なんだろ、嫌がらせとか?…とりあえず添付を見てみるか。
「あれ、案外普通」
普通にお弁当が写っている。若干面白いのが、振り向いたまま固まったであろうタケルの表情かな。
「見せ…ぶふっ」
「郁ちゃん達、なに見てるのー?」
「ああ、実は郁の弟がね…」
昼休みは、このメールのお陰でいつも以上に楽しく過ごせた。チャイムが鳴り、笑うのもそこそこにして授業の支度を始める。
「ん?」
しかし、よくよく考えたらタケルからのメールで、添付にタケルが写ってるって……おかしくないか?おかしいよね…あれ?帰宅後、理由を知った郁は罰としてタケルの髪で遊んだ。
「タケルはツインテール似合わないね」
「だったらやめろよ…頼むから…」
「わかってないなぁ、似合わないのがいいんだってば」
「……」
そしてちゃっかり、メールは保護しておくのだった。
?????? 占いつきグラタン/完
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