08.占いつきグラタン

「あ」

郁は、膝の上に置いたお弁当箱をじっと見つめる。向かい側でサンドイッチを頬張っていた友人は、もそもそと口元を動かしながらどうかしたのかと郁に問う。

「このお弁当、タケルのだ」

「あ、ほんとだ。いつものと違うね」

「…うっわーどうしよう」

「食べちゃって大丈夫でしょ」

「違うんだよ、千鶴」

「?…違うの?」

郁の表情に悪どい感じの色がつく。友人である千鶴は、郁が言わんとしていることをなんとなく理解した。

「タケルがあの、あのファンシーなお弁当食べるとか…写メ要求しないと、今すぐに!」


素早くポケットから携帯を出し、音速でメールを打つ。送信。全てをやり終えた郁は、ついにゲラゲラと笑い始めた。

「メール来たらあたしにも見せてね」

千鶴はサンドイッチを完食して、笑顔で言った。

◇◇◇

タケルは眠りたかった。出来れば昼休みが終わるまで。これは、なんとか昼休みを乗りきりたいというタケルの祈りだ。

「タケル、お前飯食わねぇの?」

早くも弁当を食い終えたらしいブン太は、タケルが未だ弁当を袋から出さないことに気づいた。

「…まだ食欲ないんだよ」

「早くしねぇと俺が食っちまうっスよ!」

「触れたら殺す」

「ひぃ!?」

タケルの精一杯の威嚇に、赤也は一発で引き下がった。コレを皆の前で開けられるわけにはいかない。「ぶっふー!なにお前これキティーさんのウインナかよ!しかも占いつきグラタン!!」に、なる。…絶対。くっそ、なんで今更気づいたんだ俺。そしてなんで姉ちゃんの弁当はこんなにファンシーなんだ。

「ふふ…」

幸村はそれまでブン太とタケルの掛け合いを、ニコニコと笑顔で大人しく眺めていた。そしてその表情のまま言った。

「ブン太にあげたくないような、美味しいオカズがあるのかな?」

「い、いやないから」

「慌てるのが更に怪しいっスよ〜、先輩」

「ブン太、本当みたいぜよ」

「まじかよい!?ずりぃぞタケル、お前のモンは俺のモンだろ!」

「ぎゃー!!」

仁王のまさかの煽りについてゆけず、タケルは生命線である弁当箱をブン太に易々と奪われてしまった。

「ぶっふー!なにお前これキティーさんのウインナー!?しかも占いつきグラタンとか!!」

「……」

俺の予想と一致した台詞をそのままぶつけられる、苛立ち。

「タケルは何か病気か?」

「柳、それは酷すぎるんじゃないか」

「すまん、幸村」

幸村はフフフと口先で笑ってみせる。もう嫌だ…早く昼休み終わってくれ。

「タケル、携帯光っちょるぜよ」

「ん?…て、勝手に開くなよ」

タケルが振り返ったそこには、我が物顔で人の携帯をいじる仁王がいた。仁王はタケルを完全無視の方向でスッと立ち上がり、弁当から距離を取る。パシャリと携帯が鳴り、そのまま携帯を閉じた。

「ん」

「いや、ん。じゃねぇから。何したのお前」

焦りながら履歴を見ると、見覚えのない姉宛ての添付メールがあった。

◇◇◇

「あ、メール来た」

「添付は流石にないでしょ」

「あるね」

「…案外タケルくんも乗り気なんだね」

「うーん…」

その言葉に、郁は首を傾げる。タケルの性格だと絶対添付しない。なんだろ、嫌がらせとか?…とりあえず添付を見てみるか。

「あれ、案外普通」

普通にお弁当が写っている。若干面白いのが、振り向いたまま固まったであろうタケルの表情かな。

「見せ…ぶふっ」

「郁ちゃん達、なに見てるのー?」

「ああ、実は郁の弟がね…」

昼休みは、このメールのお陰でいつも以上に楽しく過ごせた。チャイムが鳴り、笑うのもそこそこにして授業の支度を始める。

「ん?」

しかし、よくよく考えたらタケルからのメールで、添付にタケルが写ってるって……おかしくないか?おかしいよね…あれ?帰宅後、理由を知った郁は罰としてタケルの髪で遊んだ。

「タケルはツインテール似合わないね」

「だったらやめろよ…頼むから…」

「わかってないなぁ、似合わないのがいいんだってば」

「……」

そしてちゃっかり、メールは保護しておくのだった。


?????? 占いつきグラタン/完
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