あたしの席は沖田君の斜め後ろ。
隣にはなれなかったけど、斜め後ろってだけで充分だ。
だってここからは沖田君の背中が丁度見えるんだもん。
それだけで充分。
あたしは隣の席になって沢山話さなくて充分なの。
話すと余計、嫌われる気がするから…。


今の時間は数学。
さっきの理科は理科室で行ったから席が替わってしまった。
でも、今はいつもの、沖田君の斜め後ろの席なんだ。
だから好き。美術とか家庭科とか理科とか…教室移動しない授業が好き。


数学教師がチョークを削らせながら黒板に文字を書いていると、沖田君が消しゴムを落とした。
その消しゴムは丁度あたしの足の横にあって、あたしが拾い上げようとすると沖田君も拾おうと手を伸ばしていた。
だから、つまり…今あたしの手と沖田君の手は重なっているわけだ。
偶然と偶然と偶然が重なって出来たことだ。
まるでラブストーリーみたい…。


「ありがとうございまさァ」

「どっ、どういたしまして…」


沖田君はあたしの手から消しゴムを貰うと目もあわせずに黒板の方を向いてしまった。
もしかして嫌だったのかな…?あたしと手が重なったのが嫌だったのかな…?
心臓は今でもドクドクとうるさいが、それと同じくらいキュッと胸が締め付けられて痛かった。


それからあたしは授業に集中していた。
でも、何か殺気のような…するどい視線を感じたからノートから顔を上げて教室を見渡すと神楽ちゃんと土方君がニヤニヤと笑いながら沖田君の方を見ていた。
それからあたしの方を見て、またニヤニヤ笑いながら神楽ちゃんと土方君が話していた。


な、何か…。あたしの顔に何かついてるのかな?
それともあたし顔赤い!?
そんなに赤いのか、あたしの顔!


「よし、今日はここまで。復習しっかりやっておくように」


チャイムがなり数学教師が教室から出て行くと生徒達は机から勢いよく飛び上がり、友達のところへ行く。
あたしも真っ先に神楽ちゃんの方へ向かった。

prevnext