金くれよ | ナノ



「いいか?もう二度と無断で外に出んな」

「なんでそーなる?大体、私を置いて出かけたのはアンタらでしょ?」

「だからな〜にぃ?お前留守番もできないの?」

「っ、できる!」

「ならいいな」

「…はい。」


たった少しだけ、プライドを傷つけられただけで、こんな風にけろりとやられちゃうなんて、私もバカだな…。こんな事でムキになっちゃダメだ。これから先、このペースでずっと「はい」と言わせられると思うと…うぅ、考えただけで背筋が凍る。
新八くんが来て、神楽が起きて、少し賑やかになった万事屋の電話が鳴った。その電話を銀時がとって、「万事屋ですけど〜」とやる気のない応答をする。受話器を置いて、銀時がいかにも嬉しそうな顔をこちらに向ける。


「俺ちょっくら出てくるわ〜」

「仕事ですか?だったら僕たちも…」

「お前らはお留守番。」

「銀時!私も行きたい!」

「ずるいアル!私も行きたいネ!」

「お前らは留守番つってんだろ」

「私も行きたい!ちょっとくらい外出たっていいでしょ!役人に見つからなければいい話なんだから…」

「未来…?」


そう言って、自分でも少しだけ悲しくなった。役人は私のことを探している。その理由は充分すぎるほど私には分かっている。それを銀時たちには言っていないけれど。言ってしまったら嫌われるんじゃないかと、怖くて、言えないんだ。


「ダメ?」

「神楽は留守番。お前も、特別だからな」

「ありがとう銀時!」


私は急いで玄関へ駆け出した。それを見た銀時はガキかと呟いた。
銀時と外へ出ると、人が沢山いた。私がいたところはもっと人は少なくて、いつも決まった人しかいなかった。


「役人に見つからねェようにしろよ」

「分かってるよ」


それは私が一番わかっていることだから、充分に注意はするつもりだ。だけど、私服姿の役人がどこに潜んでいるか分からない。それに私は今自分でもおかしいと思うくらい浮かれている。うっかり、見落とした、なんてことがあったら私は自分で自分を殴ってやりたい。


「で?仕事って?」

「仕事?」

「仕事じゃないの?」

「違ェよ。散歩」

「甘味処行くんでしょ?」

「いいいい、やぁ?行かないからね、そんなところ行くつもりとか全然なかったからね?」


バレバレなんですけど。汗ダラダラだし。行くつもりでしたって言ってるようなもんだよ。うそ下手だなぁ…。素直なところがいいところだったりするんだけどね。
私には少しだけお小遣いがあった。逃げてくるときに盗んできたものだ。それを銀時に使ってあげてもいいと思ったけれど、それはやめた。銀時と甘味処で使い果たすくらいなら、新八くんと神楽に何か買ってやるか、給料をあげたい。銀時は無償でこきつかってるみたいだから。
甘味処をチラチラと横目で見る銀時を私は見逃さなかった。そこまでして行きたいのか…と心の中でため息をついた。しかし、さっきまでチラチラと横目で甘味処を見ていた銀時の目がいつしか真剣なものに変わっていて、私はぐいっと押されるように銀時の背中に隠されていた。


「よォ、旦那。こんなところで何してんですかィ」

「散歩だ散歩。君こそ何してんの総一郎君」

「総悟です。俺も今日は非番なんで散歩でさァ」

「ヘェ…で?何か用でしょうか総一郎君」

「総悟です。この間のアレ、見つかりやしたか?」

「一万円じゃあの仕事は請けられねェな。帰れガキはもう寝る時間だ」

「まだ昼間ですぜ」


誰と話してるかも分からない。声色しか分からない。総一郎君て誰だ。聞いたことない名前だ。だけど、相手がそれを訂正して自分の名前を口に出していた。その名前は聞き覚えのある名前だ。
総悟…沖田総悟。真選組一番隊隊長で凄腕の剣の使い手。ドS…とも聞いたことがある。そいつがどうして銀時と話しているのかは分からない。だけど、本能が「隠れていろ」と私に命令している。たしかに、ここでそいつの目の前にでたらまずい。銀時と話している仕事というものが何か私には分からないが、私にとってはまずいものかもしれない。
その後も少しだけ喋っていたが、くだらない話がほとんどだった。沖田が見えなくなったのを銀時が確認したら、私は銀時の大きい背中から解放された。


「ねぇ…銀時…」

「お前のことじゃねェ」

「分かってるけど…」


アレだけ甘味処に行きたがっていた銀時が一万円の仕事を断るなんて。
咄嗟に私のことじゃないと言ってきたのもおかしい。
きっと私のことだ。
私が迷惑かけてる。


「銀時さ、私のこと話そうか」




揺れる心


「興味ねェ」と銀時は言った。たしかにここで話しても言い訳にしか聞こえないかもしれないが、いずれ話さなくてはならないときがくるだろう。なら、今此処で話しておいた方がいい。
私は、独り言のように言葉を紡いだ。


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