自分の部屋で一生懸命大きな鞄に荷物を詰める。ぎゅうぎゅうになった鞄に最後はお守りをつけておしまい。


「終わったよ 荷造り」

「へー」

「なにすねてんの?」

「すねてねェや」

「一番隊隊長さまが随分ご立腹なことで」

「うるせェ」


私の部屋にきて、あからさまに不機嫌そうな顔をしている総悟を少しだけからかってみる。今日だけはいつもと立場が逆転してる。いつもは総悟が私をからかってるけど、今日の総悟はからかいやすくていい。仕返しもなさそうだし。


「さっきからすねてるすねてるうるせェんでィ、俺の気分なんかお前に分かるワケねェだろィ」

「分かるよ。何年アンタの部下やって、幼馴染やってると思ってるの?」

「知るか死ね」


素直じゃないのがアイツ。いつだってそうやって思ってることと反対のこと言う。そんな分かりやすい性格しときながら、気分分かるななんておかしいでしょ。すぐに分かる。


「さっさと行けよ…俺ァお前がいなくなってせえせえすんぜ。この部屋空いたら、何に使おうか考えてるとこでさァ」

「隊長さまは寂しがりやなんですね〜私がいないと寂しいの総悟きゅん?」

「殺すぞ」

「じゃあね、」


部屋を出る。屯所の門の前には一台の大きな車が止まっていた。みんな顔をぐちゃぐちゃにしながら、私のことを見送ってくれる。
カンタンに言えば私は結婚するんだ。玉の輿っていうやつ。あり得ないくらい大金持ちの人をとっつぁんに紹介されて、是非!と押されて、何度も断ったのに、とっつぁんにいいじゃねぇかと言われて流石に断れなくなった。銃口まで突きつけられちゃったし…。


「バカ総悟…っ」


車に乗り込んで、私が呟いた一言は空に消えた。












あれから、何年たっただろう。きゃっきゃっと私たちの一人娘が歩いている。可愛いもんだ。膨らんだお腹をさすりながら、彼の横に腰を落とす。


「あれから何年たっただろうね」

「何の話でィ」

「まさか、あの大金持ちの家を破壊して、私にプロポーズするなんて…思ってなかったよ」


ふふっと笑うとあの日と同じように、ぶすっと頬を膨れさせて不機嫌になる。


「まぁ、でもよかったよ。嬉しかった。ずっと望んでいたことが叶ったから。だからそんなに不機嫌にならないで?」

「なんでお前に俺の気分が分かるんでィ」

「だって……、」


花嫁にプロポーズ


ぶすっとした総悟にくすっと笑いかけて私は言った。「何年総悟のお嫁さんやってると思ってるの?」


(20110601/藍田雛)


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