並べた言葉



進路希望を教えてくれ。本日行われた個人面談。クラス全員が教師から聞いた台詞がこれだ。ああ、スクアーロは面倒だからってどっかに行っちゃったね。その為、私が教師にスクアーロの希望を伝える羽目になった。勿論明確には伝えなかったけど。



「ね、スクアーロ。私は何て言えばよかったのかな?」
「俺のことをか?それとも…」
「どっちだと思う?」

みんなが帰った後の寂しい教室。差し込む夕日が、二人分の影を作った。そんな言い方をするってことは、気づいてたんだね。私のこの臆病な心に。気づいていて尚、あの時私を抱き締めたんでしょ?本当にスクアーロはずるいよ。

「なまえ、自分の生きたい世界を選べ。あんなこと言っちまったが、俺に構うことはねぇ。」

今更だ。けど、迷う。私はどう生きたいの?自分でも分からない。スクアーロと一緒なら、どんな未来でも。少し前までそんなことを思っていたけれど、本当は、いったいどんな未来を望んでるの?

「…私、昔は世界一偉い人になりたかったの。」
「はぁ?」

私は思い出したように鞄からノートを取り出し、まだ白紙のページを開いた。ボールペンを走らせ、そこに世界一偉い人と記入する。

「その次はアイスクリーム屋さんになりたかった。」

そう言ってまたペンを走らせた。勿論ノートにはアイスクリーム屋さんと書き加えられている。

「ゔお゙ぉい…」
「スクアーロは?忘れたんなら、今なりたいのでいいよ。」

そのペンでノートをトントンと叩く。早く言ってと急かすように。その思いを読みとったスクアーロは長いため息の後、重たそうに口を開いた。

「剣帝…とか名乗れたらいいと思う。」
「それ確かヴァリアーの!」
「前のボスな。俺がぶった切った奴…まぁ二代目あたりで。」
「ならヴァリアーのボスとかは?」
「めんどくせぇ。それに次のボスなら決まったぞぉ。」
「んー…じゃあボスの側近とか、あ!隊長とか響きが格好いいよね。」
「側近で隊長だぁ?余計めんどくせぇだろぉが!」
「いーからいーから。」

二代目剣帝、ボスの側近、どっかの隊長、ノートは私たちの未来で埋まっていく。それが叶うか叶わないかは問題じゃなくて、本当に進みたい場所への道標になればいいと思ってる。こうして見るとほら、私とスクアーロ、全く違う世界を望んでるんだよ。

「私、スクアーロと全然違う、ね。」
「…ああ。」
「一個くらい、一緒の夢、欲しかった。」

最後にもう一つ。ノートの隅に小さくスクアーロのお嫁さんと書いたけど、涙が真上に落ちてその字は滲んでしまった。

「最後だけ、一緒にしてやるぜ。」

私の手からボールペンを奪い、スクアーロはノートになまえを嫁にもらうと書いた。涙の残る瞳でスクアーロを見れば、なんだよって言って外方を向き、夕日で頬を染めていく。



ノートに並べた言葉は、君と私の幼い愛でした。



「ノートに書いたこと、全部叶えたら迎えに来るぜぇ。」
「私、世界一偉いアイスクリーム屋さんになってからスクアーロのお嫁さんになるね。」
「…お前は最後だけでいいぞぉ。」


そう言ってスクアーロは真っ黒な隊服に袖を通し、真っ黒な世界に消えた。



091115

これは三十路鮫が迎えに来てくれるというハッピーエンド

title:10mm.様


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