帰りたくない
スクアーロに新しい左手が出来たらしい。それを見せたいという理由で、私はスクアーロの部屋に招かれた。部屋の隅にあるあのベッドで、私達は大人を知ったんだ。その事実がどうも照れくさくて、初めて体を交えた日以来、ここには来ていなかった。
「凄いね!手袋してると分かんないや。」
「だろぉ?意外と便利なんだぜ。ここを外せば…」
「うわぁ。」
正直、体の一部となる機械を受け入れられずにいた。だけどスクアーロがあまりにも楽しそうに話すから、この左手もいいかもしれないと思えた。それはとても不思議な気持ちで、本当にそう思っているのだろうかと疑いたくなるようなものだった。
「…なまえ。今更こんなこと言うのも変、だけどよ…」
「何?改まって。」
「こんなになった俺でも、まだ好きでいられるか?」
心のどこかで思ってた。スクアーロは不安なんじゃないかって。その予感は的中。だから私は驚きもせず、やっと言ったねと笑ってやれる。そりゃ普通の女なら嫌がるよ。自分で手を切り落とす馬鹿男なんて。よかったね。私は普通じゃないから、それでもスクアーロが大好きだよ。
「何も変わらないよ。だってスクアーロだもん。大好き。」
その返事への対応は優しいキスだった。軽く触れた唇をすぐに離し、スクアーロは虚ろな目で私を見つめる。次に触れた唇はなかなか離れない。それどころか私の唇を一度噛み、ぬるりと口内に舌を滑らせた。慣れないその感覚に、私の体はビクリと跳ねる。
「わ、悪い!…そろそろ帰るか?送ってやるぜぇ。」
「…もう?」
パッと離れたスクアーロを、不満たっぷりの目で睨んだ。ちょっと驚いただけだよ。まだ物足りないの。口には出さず、その目で訴える。
「これ以上いたら、またなまえを汚しちまいそうだ。」
「いいから、いっぱい汚してよ。」
スクアーロの胸に頬を寄せ、ぎゅうっと抱き締めた。抱き返す腕は少し震えていて、背中に当たる左手は硬い。今日からはこれも全部含めてスクアーロなんだね。その左手は、いったいどんな風に私を抱いてくれるんだろう。
ねぇ、スクアーロ。
私、まだまだ帰りたくないの。
もしかしたら、私が綺麗なスクアーロを汚しているのかもしれない。
091113
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