よく分からないけど、やはり人は生まれ育った町で生きるのが正解なんだと思う。あるべき場所に、その人に一番合った場所に神様は私たちを生み落としてくれたのだから。

「じゃ、あ。行くね。」

日本という国に生まれ、イタリアという国に住む。そんな生活も今日でバイバイ。辛いことも悔しいことも、嬉しいことも楽しいことも、いっぱいもらったよ。ここは私の第二の故郷で、大切な場所。

「なまえ、本当に行くのかよ。」
「行くよ。一緒に遊んでくれてありがとうベル。」

「先輩…ミーは…」
「フラン、新米は新米らしくがむしゃらに頑張りな。」

「いつでも遊びにいらっしゃい。」
「あったりまえ!ルッスーリアの紅茶はまた飲みたいからさ。」

「元気でな。」
「レヴィこそ。これからもその調子でボスに尽くしてね。」

「…」
「ここは何か言う所でしょ?…本部に行ったって私のボスは、ボスだよ。」

寂しく、ないよ。同じ世界にいるんだ…イタリアと日本くらい、近い、もん。飛行機で十時間ちょっとじゃんか。大陸が違ったって、関係ないよね。

「スクアーロ。」
「…」
「ありがとう。私は恋の仕方も人の愛し方も、全部スクアーロに教えてもらったんだ。」
「…」
「それは人生で一番楽しい時であったり、一番苦しい時であったりしたけど、何物にも変えられない時間だった。これからだって…」

あ、もう行かなくちゃ。時間がない。大きな荷物は先に送っておいたから、今はトランク一つ。まるで数日間の任務に行くみたいだね。また、普通に戻って来ちゃいそうだ。

「ゔお゙ぉい!!!」

振り返ることは出来なかった。振り返れば、スクアーロにしがみついて泣き叫ぶだろう。日本に残した家族のことすら忘れて、貴方といたいの!離れたくないの!まだまだ帰りたくないの!って、たくさん我儘を言うだろう。だからどうか、こんな私を甘やかさないでください。

「なまえが決めたんだろぉ!なら馬鹿みたいに笑って出て行きやがれ!!俺に感謝なんてすんじゃねぇ、踏み台にしていけぇ!」

じわじわと肩が竦む。こぼれ落ちる涙を止めようと。だけど全く止まってくれないんだ。好き、ここが、みんなが、スクアーロが。堪えきれなくて、喉がヒリヒリと痛むくらい声を張った。

「踏み台じゃない!みんな一緒に上ってくんだから!!」
「俺らが下にいねぇと、なまえが落ちてきた時に誰が受け止めんだぁ!!」

ハッとした。やっぱりイタリアは遠いよ。もっと側にいてくれないと、私が落ちてきたことにすら気づかないかもしれない。そんなの、嫌だ、嫌だ、嫌だ。

「じゃあずっと私を見ててよ!遠くに行っても見離したりしないで、ずっと…一緒の、時間、刻みたいの。」

今この時に、私だけ置き去りにしないで。埋まらない隙間を作らないで。遠くにいても、気持ちを抱き締めて離さないで。

「カスが。世界地図も見られなくなったか?日本なんざ、掌の幅すら離れてねぇ。」

世界地図はすーっごく縮小してるんです。日本とイタリアの距離がそれくらいなら、特に縮小した地図…そんなこと、ボスだって知ってる。知ってるから、優しさに胸が痛むの。

「あーもう行く!行くから!!カス鮫が浮気したら世界地図拡大してやる!!!」
「ゔお゙ぉい!!その台詞、そっくりそのまま返すぜぇえ!」

心は勿論。足取りもトランクも全部全部重いけど、世界地図はこの小さなトランクにすっぽり収まるくらい更に小さいのです。



旅立ちは、そんなものです



未来を恐れるな
過去が味方してくれる



100322

それぞれの道を歩む全ての人へ


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