ベルさんと夕食を共にした後、自室に戻って備え付けられたバスルームで湯を浴び、今に至る。ぽふっと音を立ててベッドに埋まれば、柔らかい布団が私を包む。ああ…気持ちいい。今日は楽しい買い物、命を狙われているという事実、体と心、同時に負担のかかる日だった。このまま寝てしまおうか。髪は濡れたままで、服装はタオル生地のナイトウエアのみ。短パンだし、風邪ひくかな…いいや、大丈夫。そんなに寒くないもん。

「ゔお゙ぉい!開けたぞぉ!!」
「スクアーロさん、何かがおかしいです。」
「気にすんなぁ。…っと、悪い、出直した方がいいかぁ?」
「え、あ、…別に、大丈夫です。」

この人はいつも訪問が急だ。扉を開けたまま佇むスクアーロさんを見て、少し迷う。肌の露出が多いけど、まぁセーフかな。スクアーロさんさえ変な気を起こさなければ…起こすわけないか。期待なんかしてないけどね、でも格好良いし、初恋の相手だし、意識されないのはちょっと辛いかな。あー本当に意識してないんだ。私が大丈夫と言った矢先、そうかと言って躊躇なく部屋に入ってきた。その手にはグラスと高そうなワイン。ここで飲むつもり?

「なまえは飲める方か?」
「ワインはあまり…飲んだことないです。」
「なら丁度良い。これは美味いぞぉ。」

コルクが抜けると、テーブルに置かれたグラスにとぷとぷと中身が注がれる。綺麗な深い赤、あ、ザンザスさんの瞳みたいだ。スクアーロさんがソファに腰掛けたので、私もベッドからソファへ移動した。そこで私は少し戸惑うことになる。対面するソファに座るべきか、スクアーロさんの隣に座るべきか。普通は対面でいいだろう。しかしグラスは横に二つ並べられているのだ。

「どうした?」
「いや…その…」
「俺の隣じゃ酒は飲めねぇか?」

スクアーロさんは冗談っぽく口角を上げた。そっか、隣でいいんだ。そうと分かれば足早に駆け寄り、腰を降ろす。隣から漂う香水の匂いが大人っぽくて、胸がトクンと鳴った。私も二十歳越えてるんだから一応大人なのにな。

「いただきます。」
「ほらよ、乾杯。」
「何に乾杯ですか?」
「いいワインを開けた記念だぁ。」
「そ、そんなに高いんですか!?」
「言わねぇ。」

高い音をたててグラスが軽くぶつかる。口にしたワインは目が覚めるほど美味しくて、すぐにグラス一杯を飲み干してしまった。空になればまたスクアーロさんが注いでくれて、私は二杯目を喉に通す。

「なぁ、気になってたんだけどよぉ。」
「はい。」
「なまえ、お前仕事は…」
「ああ、心配ないですよ。辞めてイタリアに来たんです。」
「は?何でまた…」
「聞きたいですか?」

ニコリと微笑みながら聞くと、スクアーロさんはばつの悪そうな顔をして目を逸らした。別に聞かせたくないような話でもないんだけどな。言いにくい事情があるように思わせてしまったのだろうか。

「別にいいんですよ。一人でイタリアに来た理由にも繋がりますし。」
「…複雑な事情があんだろぉ?」
「いいえ、実に簡潔に話せます。30秒くらいで終わりますよ。」
「それもまたスゲェな…じゃあ聞くが、何故だぁ?」
「三年付き合った男と喧嘩別れしました。会社の上司だったんです。以上。」

あ、30秒もかからなかったな。話しにくい内容ではないけど、わざわざ話さなくてはいけない内容でもない。言ってしまったのはこのワインのせいだろう。少量とはいえ、ちょっと酔ったのかも。

「そりゃまた…ま、いーんじゃねぇかぁ?そのお陰でお前が予約してたホテルもすぐ見つかったしなぁ。」
「あ、そういえば。どうしてホテルの場所分かったんですか?」
「あの路地近くのホテル、若い日本人、女一人、このワードだけですぐ分かった。そんだけ女一人で来るような不用心な奴はいねぇってことだぁ。」
「あら失礼ですね。」

そっか。もしその元彼氏である元上司と来ていたら捜索が困難になったわけか。男女ニ人で来ている日本人は少なくないだろうしね。

「ね、スクアーロさん。」
「なんだぁ?」
「私の愚痴にちょっと付き合ってくれませんか?」
「…ちょっとだけだぜぇ。」
「ありがとうございます。」

せっかく酔えたんだ。この際、一人で旅行にくるほどに心痛めた理由でも聞いてもらおうじゃないか。相手が初恋の人だなんて辺りが、結構笑えていいかもしれない。



stage7 end



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