「お前、名前は?」
「なまえ…旅行に来ていた日本人、です。」

ベルフェゴールという名の男に名前を聞かれた。私よりいくらか年上に見えるが相手は外人、きっとあまり変わらないだろう。瞳を見せない代わりに、並びの良い歯をちらつかせていた。

「お兄さ…す、スクアーロ、さん。私を助けてくれたんですか?」
「仕方ねぇだろ。」

スクアーロさんの話によれば、場所を変えたとしても、あのまま一人でいると私は様子見、兼死体の回収に来た敵方さんに殺されてしまうらしい。成る程。確かに観光客が殺されたとなれば事態は大事に…かと言って、返り血だらけのスクアーロさんが安全な公共施設に私を運んでも、それはそれで大事だ。人が殺された時点で大事だけどね、マフィアとか言ってるし、裏社会的なところではバンバン死んじゃってるんでしょ?表社会に知られないように処理してるんでしょ?私、飲み込みは速い方だから大丈夫、なんとなくは理解出来たと思う。

「そっか、私、スクアーロさんの仲間だと思われたんだ。殺されても相手方はこっちが回収に来ると思ってるし、こっちは知ったこっちゃない、そういうことか。」
「へぇ、なかなか。飲み込み速いじゃん、なまえ。そんで死体が一般人に見つかれば大事件、それを避けたかったわけ。」
「ま、ここに来ちまったら安全もくそもねぇがな。」

スクアーロさんの言葉に、背筋が凍る。そうだ、この人達は暗殺部隊だとか言っていた。この建物内、私を除く全ての人が殺しのプロ、そういうことなんだろう。この組織のボス、ザンザスさんは何も話さない、こちらを射るように睨みつけているだけだ。

「私、ど、どうなる、んですか?やっぱり、殺されちゃうんですか?」
「うしし、やっぱそうなる?なら俺がやってやるけど。」
「ゔお゙ぉいベル!冗談も程々にしておけ。なまえと言ったな、お前には選択権をくれてやる。」

この場所を立ち去り、自力で本国に帰るか、ここに留まり、帰国出来る状態になるまで息を潜めるか。この二つらしいが、私の答えは決まっている。帰る、私は一刻も早く日本へ。

「す、すぐに帰りま「言い忘れたが、俺の今回の任務はとある男の暗殺、及びそいつの持つ機密情報の強奪だ。男は殺したがその情報を持って逃げた男…つまりお前とはち合わせた奴等は3〜4人しか殺しちゃいねぇ。逃げ帰った奴等に顔、見られてるかもなぁ。」

なんてことだ。つまり自力で帰るのであれば、あのおっかないオジサン達が襲ってきた場合、一人で対処しなければならないのだ。お金もない、言葉も分からない、地理も知らない、こんな土地で。どの道を選ぼうとも命は危険に晒される。やはり一番大切なのは命であって、それを守るためならば多少のことには目を瞑らなくてはいけないものだ。この人達は暗殺者だということを除けば“頼れる人”なのだから。

「よろしく、お願いします…」
「女の子が生活に加わるなんて嬉しいわぁ〜仲良くしてね。男ばっかりだから、心配事なら私に相談してちょうだい。」
「ミーもムサい男集団よりかはマシですー」

私の頬がひきつる中、初めて口を開いた。ザンザスさんが。それは低く、ボソリと呟くような一言だったけれど。

「好きにしろ。」
「ぼ、ボス!よろしいのですか!?」

これでよかったのだろうか。私は迫り来る不安に、目を伏せた。と同時に軽く叩かれた頭。力なく上を向けば銀の髪が部屋のライトで光っていた。

「悪かったな、巻き込んじまって。」


ああ
十年も心の奥底で想い続けた彼が今
私の目の前に



stage4 end


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