何が大変って、帰ってからがそりゃもう大変!充電器を差し込んでケータイの電源を入れれば何通ものメールと何着もの着信が。友達や同僚には、無事に帰国したことと詳しくは近々話すという内容のメールを一括送信しておいた。


問題は、今目の前にいる二人。


「ママは大賛成よ〜。パパだって、ねぇ。」
「…まぁ、悪い話じゃないとは思う。」

うわ…お父さん超嫌そう。この様子じゃ、本当にここまで来て結婚の話したんだ。当人の私より先に両親が結婚の話を聞いてるなんて、変な感じ。私が大事に抱えている封筒の中身も、二人はきっと知ってるんだろうな。

「そうだ。なまえが買ってきてくれたお菓子、今食べちゃおっか。お茶も用意してくるからね!」

重い空気を読みとったのか、お母さんがパタパタとキッチンにかけていった。残された私は空気に押しつぶされそう!

「なまえ、母さんには内緒なんだけど。」
「え!あ、なっ…な、に?」

自分から口を開いたお父さん。その姿を確認したいのに、顔は新聞で隠れてしまっていた。

「あの人の仕事、あまり感心出来るようなものじゃないんだろう?父さんは同じ男だから、分かるよ。」

私は声が出せなかった。ただ、肩が少し震えるだけ。なんで、そんなこと分かるの?この次に言われることは、出来ることなら聞きたくない。私の心情を知ってか知らずか、お父さんは返事を待たずに話し続けた。

「いい人だった。なまえを大事に思ってくれているし、すぐ日本に来られるような人だから経済的にも心配なさそうだしね。だけど、父さんは…」
「…怖…かった?」
「そう。なんだろう、纏っている雰囲気が、ちょっと。」

やだお父さん。いっつも鈍いくせに、こんな時だけ男の勘なんて働かせないでよ。本当のことだから、私何も言い返せないじゃん。確かに怖いよ。マフィアだなんて…しかも暗殺部隊の幹部で、隊長で!怖くないわけ、ない。けど、けどね!普通の男の人なの。優しくて、強くて、いつだって私を守ってくれて、笑ってくれる。一目で、私の全部を持ってかれちゃったんだ。こんな恋、他の誰とも出来ない。これから先、人生なんてまだまだ長いけど、今以上の気持ちにはなれないって、言い切れる。

「ねぇ、私の話、聞いて欲しい。」
「聞かなくても分かるよ。」
「え?」
「それでも好きだって言うんだろ。」

やっと新聞を折ったお父さん。見えた顔は穏やかで、さっきまでの声色が嘘みたいだった。

「仕事となまえ、どっちを取るのかと聞いたら、あの人はたぶん仕事だと言うよ。」
「そう、だね。」
「悲しくない?」
「うん。きっと、同じくらい大事だって、言ってくれるから。」
「…父さんもそう思ったから、いいよって言ったんだ。」

おめでとうって言ってくれた。私は真っ赤になった情けない顔で、ありがとうと返す。すると懐かしい日本茶の匂いと共に、タイミング良くお母さんが戻ってきた。

「見て見てパパ!なまえが買ってきてくれたお菓子、凄く美味しそう。」
「ホントだ。なまえも食べようか。」

うん。そう返事をしてから、思い出したように封筒を空けた。やはり婚姻届は何が書いてあるのか分からない。けど、その中には何とか読めるスペルビ・スクアーロの文字が。

「あら、本当に外人さんと結婚しちゃうのね。それ見たら実感湧くわ。」
「私も。」

お母さんと二人で笑った後、もう一枚メモが入っていることに気づいた。それは日本語で、私にも安易に読める。

“日本に着いたらワンコール入れとけ。日本時間の昼頃にかけ直す。”

そういえば、スクアーロさんの携帯番号知らなかったっけ。本文の下に綴られた数字を眺めながらぼんやり思った。それだけ、イタリアでは傍にいてくれたんだ。最後の一週間は特別に免除!両親がいるのに思わずニヤケてしまって、気味が悪い!なんて言われちゃった。このお菓子を食べて、さっそくワンコール入れておこう。



stage39 end



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