暖かい紅茶にたっぷりミルクを入れて、さらに角砂糖やシロップも。何だかイライラするから、甘いものが欲しくなる。スクアーロさんがコーヒーをブラックで飲もうとしたので、角砂糖を二つ放り込んでみた。

「今日は甘いコーヒーが飲みたい気分でな。ちょうど良かったぜ。」
「ならシロップもどうぞ。」
「ああ。」

嫌がらせだって、気づいたかな?それとも甘いもの、平気だった?どっちでもいいけど、今の私、すっごく嫌な女。後悔したって今更だけど。

「確かに手続きは任せろと言った。だが、内容が違うぜぇ。」
「…なら、何の?」
「これを見てみろ。」

空港にある小さなカフェの机の上。スクアーロさんはそこに数枚の用紙を広げた。私はその用紙の一枚目を手に取り、日本語で書かれた文面に目を走らせる。はは、何これ?スクアーロさん、本気?

「イタリアの永住権について…ですか。」
「イタリアは永住権が取りづれぇんだ。母国ながら、めんどくせぇ。」

いやいやいや!普通に話進めてるけど、なんか違うよね?ねぇ!!え、何なの?私イタリアに永住すんの?ってか引き止める為の手続き!?

「まずは日本に帰れ。で、こいつに名前書いてこい。」

続いて手渡されたのは薄い封筒。中身を確認しようにも、丁寧に糊付けされていてすぐには開けなかった。

「これは…」
「必要な書類の一つだぁ。」

意味が分からない。永住権に関係するものだろうか…どうしたらいいのか迷った挙げ句、私は永住権について綴られている用紙の続きを読んだ。

「……は?」
「そこだ。それにはこれが必要なんだよ。」

“配偶者”
永住権を取得する為にはその国が定めた条件を満たす配偶者が必要。この紙にはそう記されている。

「わ、たし、まだ未婚なんですけど。」
「今からイタリア人の旦那作れば済む話だろぉ。」

確かに。定められた条件の中には、イタリア人の配偶者なら良しとある。のは事実だけど、旦那?まま待って!たんま!もしかして、この封筒の中身って…

「イタリアの婚姻届。俺のところはもう記入してある。」
「やっぱり!!ちょ、ちょっと待ってください。そんな、急すぎます!」
「いいじゃねぇか。もうお前の両親には会ってきたぞぉ。」

何だって?私の両親にって…まかさこの一週間、日本に、行ってたの?嘘だ嘘!そんな訳ない。第一、私の実家なんか知らないでしょ?そりゃ並盛だってことくらいは分かるかもしれないけど、詳しく何処だなんて分かりっこない。

「嘘。だって住所なんか一言も…」
「パスポート調べりゃ分かるだろぉ。お前の父親、かなりへこんでたぜ。母親の方は喜んでたみてーだがなぁ。」

ま じ か 。お父さん…いっつも素っ気なかったけど、それなりに私のこと大事に思ってくれてたんだなぁ。お母さんはあれだ。ミーハーだから、スクアーロさんみたいな格好いい人が息子になるってことを喜んだに違いない。勿論私のことも考えてくれてるはず、だけどさ。まぁ顔には文句つけられないだろう。問題は仕事だ。馬鹿正直に暗殺部隊の隊長やってますと言ったとは思えない。

「あの…仕事とか、聞かれませんでした?」
「…正直、危ねぇ仕事だとは言った。お前の両親は警官かガードマンって思ってんじゃねぇか?」
「そ、それで納得したんですか…うちの親は…」
「父親は渋っていたがな。上司が横暴でって言ったらやたら励まされたぞぉ。」

お父さん…そういや、社長なんか死ねばいいのにって毎日愚痴ってたな。そんなとこで意気投合しちゃったのかよ…つーか本当に結婚して私をイタリアに永住させる気なの?…そりゃ嬉しいよ。嬉しいんだけど、さ!

「話が急ピッチすぎて全くついていけないです。」
「そりゃあこっちの台詞だぁ。雑魚引っかけたと思ったらボスが釣れちまったんだからな。」

どうやら、この時期に私が自由になるのはスクアーロさんにとっても計算外だったらしい。そしてザンザスさんに報告した時点で、私が自由になる→なら永住させよう→あれ?そういや配偶者欲しかったよな→両親説得に行こう。という方程式が頭に浮かんだんだって。ザンザスさん…貴方はいったいどんな育て方をしたんですか?真っ直ぐも何も直球すぎるでしょうが!!一週間待って、私と一緒に日本へ行けば良いだけの話なのに…それを待てないのが、スクアーロさんらしい、けどさ。

「とは言ったものの…その封筒、いらないなら返せ。別に強要するつもりはねぇ。」
「!!も、…持って、帰ります。」

いらないなんて、言ってない。大事に封筒を抱えた時、間もなく日本行きの搭乗を開始するというアナウンスが流れた。もうそんな時間?ちょっと走らないと…

「それにサインしたらすぐ帰ってこい。」
「そんな無茶っ…いったぁ。」

伝票で殴られた。しかも角っこ。畜生!どうもスクアーロさんは私を角にぶつけるのがお好きらしい。

「当然俺持ちだろぉ?だから早く行け。間に合わねぇぞぉ。」


あーもう!なんつー見送り方だよ!絶対素直にサインなんかしないから!!



そう言いつつも
胸に抱えた大切な封筒




離れていく距離は、馬鹿みたいに遠いけど。



stage38 end



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