空港には予定よりも早く着いた。お土産をたくさん買って荷物も預けたのに、まだ時間は余る。もともと余裕を持って出たから尚更。お母さんやお父さん、それに友達も、みんな心配してるかな…一週間で帰るよって言ってきちゃったし。



そう、これはたった一週間の傷心旅行だったんだ。



ただの、旅行。ちょっと手違いで長居しちゃったって言えば済むこと…そうすれば、当たり前の日常に戻れる。時間は早いけど、搭乗口へ行こう。その日常に“戻りたくない”と思う前に、早く、早く。

「流石にまだ早すぎるぜぇ。」

聞き慣れてしまった低い声。背中側から聞こえたけど、振り返ることなんか出来ない。ほら、あれだ。空耳ってやつ。あーやばい。私末期かな?余計早く行かなきゃ!その声は、搭乗口に向かう私の足をただ速くしただけ。

「ゔお゙ぉい!無視すんじゃねぇ!!」

カクンと首がしなる。襟元を引っ張られたその姿はまさしく首根っこを摘まれた猫のよう…って!ちょっと、本当?ここまでドラマチックな展開、あっていいの?

「俺に黙って帰るたぁ、偉くなったもんだなぁなまえ。」
「ス、クアーロさん…」

空港で、恋人に引き止められるなんて。

「何故黙ってアジトを発った。」
「スクアーロさんが、寝てたから…」
「起こせば済む話だ。」
「だ、だって…」
「だって何だぁ?」

だって、スクアーロさんじゃないか。私を日本に帰すよう手続きをしたのは。それだけでも悲しいのに、笑顔で見送られるなんて、堪えられないよ。

「…なまえ、何か勘違いしてるみてーだなぁ。」
「してません…スクアーロさんが、全部用意してくれたんですよね。私、ちゃんとそれで帰ります。」
「それを勘違いだって言ってんだよ。」

何ですと?じゃあ、このパスポートは?チケットは?いったいどこから来たんだよ。スクアーロさんが用意してくれたんでしょ?それをザンザスさんから受け取っ…

「…ザンザスさん、から…」
「やっぱりあのクソボスか。」

スクアーロさんは頭を抱えて深くため息。どういうこと?これを用意したのはザンザスさんで、スクアーロさんは…

「何、やってたんですか?一週間も。」
「時間はまだあるだろぉ?説明してやる。」

時計を見ても、まだまだ時間はある。ややこしい手続きをザンザスさんがしてくれたのなら、スクアーロさんはアジトにも戻らず何をしていたんだ。空白の一週間。ちょっとそこんとこ、ちゃんと聞かせてくださいよ。



stage37 end



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