あーもう、最悪。財布スられるし言葉は分かんないし。一人旅なんかに来るんじゃなかった。懐かしいあの頃から、もうすぐ十年が経とうとしていた。あれ以来銀髪のお兄さんに会うことはなかったし、私なりに並盛中の生徒に探りを入れてはみたけど何も分からなかった。私、並盛中の生徒です!って素直に言えば、あのお兄さんともう少し話せたのだろうか。まぁ今更、何も関係ないんだけどね。三年も付き合った人とくだらない喧嘩でお別れして、ちょっと初恋のことを思い出したりして、イタリアまで呑気に女一人旅。私は結婚するつもりでいたのに、な。

「ホテル、どっちだっけ?」

街中で嘆いていたって仕方ない。どうしたらお金を引き出せるのかを聞かなくては。フロントでなら英語、運が良ければ日本語を話せる人もいるかもしれない、しれないけれど!ホテルの場所が分からなくては意味もない。右?左?前後ろ斜めどっち?

「…ん?」

今、変な音が聞こえなかった?金属がぶつかるような、金網に何かが突っ込んだような、そんな物騒な音。うっそ喧嘩?マジ本当に勘弁してよ!これ以上私を不幸にして何が楽しいって言うの!?逃げなきゃ、巻き込まれちゃう。

「××××ー!!!」
「××!」
「×××.××××!!」

え、嘘、冗談やめてよ。なんか意味分かんない事を叫ばれて、隅にあった暗い路地から黒いスーツを着たオジサンがいっぱい出てきたんだけど。しかも私に何かを向けてる、じゅ、銃!?はぁ!!?いやいやいやドッキリで済まされないよ?イタリア人は陽気だなんて聞くけど、こんなドッキリは駄目!真面目な日本人は心臓止まっちゃうかも、現に私の心臓が止まりかけている。

「私、知らない!何も見てない!だから、やっやめっ…」
「ゔお゙ぉい!キサマ、ジャポネーゼか?」

え…?この声、何処かで。恐怖で瞑った目をゆっくり開けば、銀。そう、あの色だった。あの時みたいに太陽を浴びてはいないし顔も見えないけれど、見間違うもんか。スーツのオジサンは相変わらず銃をこちらに向けているものの、この銀髪のお兄さんを怖がっているように見える。顔が歪み、銃口は狙いが定まらずにカタカタと揺れていた。

「観光客相手に何やってんだぁ?お前らのやるべき事はそのケースを守ること、そーだよなぁ?」
「××!×××!!」
「日本語じゃ分かんねぇかぁ?カス共。」

や、ばい。格好いい…何か古くさい映画のワンシーンみたいだけど、守られてる、みたい。やっぱり私の目は節穴じゃなかった!あの時のお兄さんはやっぱり優しくて素敵な………あ、あれ?お、お兄さん?ちょ、何その左手の刀、笑えないから、止めようよそんな…え?どうして銃に向かっていってんの?ちょ、嘘、本当に?や、やだやだやだ冗談キツいよ。人間をき、切っ…た…なんて。

「んでぇ、このケースが俺のターゲット、ってわけだぁ。」

ケースに唇を寄せ、チュッと音を立ててキスしたフリ。あ、何かエロ…ってそうじゃないよ私!このお兄さんも明らかに危ない人じゃん。に、逃げなきゃ、逃げなきゃ。そう思ったのが、その日の記憶の終わり。



stage2 end



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