「勝手なことしてんじゃねぇ!このカス野郎が!!」

ぎゃっ!泣いて良い?良いよね?怖すぎだろこれ!!あの出来事は帰ってすぐザンザスさんに報告。成り行きでスクアーロさんに付いてきたけど、こんなに怒られるなんて…

「ボス、なまえちゃんが泣きそうだから…」
「馬鹿なカス鮫に言っている!」
「そんなの分かってるわ。声のボリュームを下げてって言ってるのよ。」

声のボリュームはスクアーロさんで若干慣れた気もするが、やっぱりザンザスさんには違う迫力がある。悪い人じゃないっていうのは分かり切ってるんだけど。

「仕方ねぇーだろぉ。こっちだって休暇取られていい迷惑だぁ。」
「そんなちゃちい変装でのこのこ表に出ておいて“仕方ない”だと?さては、テメェ自分を餌にして誘き出したな…」
「さぁなぁ。」

ザンザスさんが、グラスを握っているその手にぎゅっと力を込めた。この空気、前にも一度感じたことがあるような…ってことは、やばっ!またスクアーロさんにグラスが飛ぶ!!

「ザンザスさん!」
「ああ゙!?」
「!!…あの、ぐ、グラスは痛いです…だから…」

自分の馬鹿ぁああああ!何刃向かってんだよ殺されるでしょーが!!そのグラスの矛先は私に変更かな…ははっ。なんて思ってたのに意外や意外。ザンザスさんはグビグビと中身を飲み干し、ゴトンと派手な音を立ててグラスを机に置いた。

「カスにバンバン投げて良いほど安いグラスじゃねぇんだよ。」
「ご、ごめんなさい!」

セーーーフッ!けど危ないことに変わりはない。私は走ってルッスーリアさんの背中に隠れた。謝る必要なんてないじゃない。とルッスーリアさんは笑う。そろりと顔だけ出してザンザスさんの様子を伺うと、大して怒っているような顔でもない。…よかった。心臓止まるかと思ったよ。

「ボスの作戦を無駄にしたことは悪いと思っている。だが報告した通り、奴らはもうファミリーとしてやっていけねぇ。だからよぉ…」
「なまえを自由に…か?」

ザンザスさんに怒られるよりも攻撃力のある言葉。さっき止まり損ねた心臓は、今、たった一秒だけど、確実に止まった。自由…日本に、帰れる!誰もがこの答えを導き出した。フランさんは顔をしかめて言う。

「急すぎないですかー?」
「王子も同感。仲間意識なんて俺にはないけどさ、可愛がってたんだぜ?これでも。」

続けてベルさん。やだ何これ嬉しい。私を、ちょっとでも引き止めようとしてくれてるなんて。

「私もそう思うわ。好きな時に帰れるんだから、一週間くらい…」
「なら一週間だ。一週間後、日本行きのチケットとパスポートをくれてやる。」

え、一週間…?一週間後、日本?あれ、あれ。どうして私焦ってんだろ。これが望みだっはず。ここに来た日、直ぐにでも帰りたいと言ったのは私。なのに、この胸が苦しくなる感じ…嫌だって思ってる。信じられないけど、日本に帰ることを、私は拒んでる。

「スクアーロ、さん…」
「ボス、手配は俺に任せろぉ。一週間後だったかぁ?その間俺はここを空ける。」

…何、言ってんですかこの人。私、帰るんだけど。遠い日本に。その手配をスクアーロさんが?しかも、残りの一週間、ずっといないって…何それ。ちょっと、凄く、悲しい、な。

「おい!スクアーロ!キサマ、何だその言い方は。なまえに悪いとは思わ「うるせぇ!!レヴィは黙ってろぉ!!!」

力強く開かれた扉。スクアーロさんはそれを抜けて、また力強く扉を閉じた。カツカツと床を蹴る音は暫くその部屋に響く。

「スクアーロさん…」

瞬きもしていないのに零れる涙。それは袖で拭っても拭いきれなくて。泣きたい場所は決まっていたのに、その場所が、今は遠い。





ザンザスさんは手元の書類に目を落とし、ハァとため息を吐いた。



stage32 end


報告書(日本語訳)

以前遂行した任務について。
機密情報の詰まったケースは本物だった。中のデータに偽りなし。
しかし暗殺を命じられていたファミリーのボスは健在。前回のターゲットはボスとすり替わった参謀だと判明。機密情報は参謀が管理していた為、ケースに入れて自ら持ち歩いてたとの情報もあり、ボスと参謀のすり替わり説はほぼ確実。
現に俺を襲った者は最後に自分がボスだと名乗った。今回の独断任務にて、そのボスの死亡を確認。
ボスをなくしたファミリーが通常通り活動するのは極めて稀である。
よって以後こちらに手を出す可能性は低い。

以上
担当:スペルビ・スクアーロ




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