やっぱり来た道を帰ってたんじゃない。車が停まったのは人里離れた寂しい地。周りは自然に囲まれていて、日の暮れてきた今は少し怖い。

「…道に迷っちゃいました?」
「んな訳ねぇだろぉ。」
「ですよね…」

エンジンを切ってスクアーロさんは左手に目をやる。もしかして、凄く嫌なパターン?私は怖くなって自分の腕を強く握った。

「いつから、いましたか?」
「買い物してる間ずっとだ。まったく、暇な連中だぜぇ。…怖いか?」
「……」

怖いに決まってる。殺されるかもしれないってのに、平気でなんていられない。けど、スクアーロさんが言ってくれたから。

「守って、くれるんですよね?」
「ああ。なまえはここから動くんじゃねぇぞぉ。」
「はい。」

守ってくれるって。信用出来ないほど弱い人じゃない。それは私がこの目で確認済みだ。スクアーロさんが車を降りて直ぐ、いつか見た黒いスーツのお兄さん達がわんさかと現れた。

「見たぜぇ。お前らが隠し持っていたあのケースの中身。ボンゴレ相手に一騒動起こす予定だったみてーじゃねぇか。」
「あのディスク、そう簡単には開けまい。」
「ゔお゙ぉい!こいつぁー傑作だぁ。前回より語学の達者な奴を寄越すとは、カス呼ばわりされたのを根に持ってたみてぇだなぁ。」

あ、本当だ。前は日本語で喋ったスクアーロさんに対応出来なかったのに、今回は一人だけ日本語…日本人ではなさそうだけど。

「なぜ付きまとう。情報はこちらに渡った…今更何をしようってんだぁ?」
「我々はヴァリアーのような血も涙もないマフィアではない。仲間を殺された恨みとでも思ってもらえれば結構。」
「そんな理由で剣帝に楯突こうなんざ、馬鹿の考えだぁ。カス以下だな。」

こんなスクアーロさんを見るのは久しぶりだ。左手から伸びた刀が、相手を真っ直ぐに捉える。この先は、見ない方がいい。私には強すぎる刺激だ。目を瞑って両耳を力一杯塞ぐ。それでも微かに聞こえてしまうグロテスクな叫び声。銃声までもが響く中、誰かが素手で車の窓を叩いた。耳は塞いだまま、目だけをソロリと開ける。スクアーロさんならよかったのに。真っ黒なスーツを着た男が、私に厭らしく微笑みかけた。

「×××ー!!」

何か叫ばれたけど声は出なくて、見たくもないのに目は無意識に見開く。男は徐に四角い箱を取り出した。厭な笑顔そのままに、箱に指輪を差し込む…直前、鮫がその男を丸飲みに…って、鮫!?ここ海じゃないんだけど!

「成る程…その女は戦えないのか。」
「だったら?手でも引いてくれるってーのかよ。」
「引くと言っても、それを許しはしないのだろう。スペルビ・スクアーロ。」
「…俺も有名になったもんだぁ。悪いが、俺はキサマの顔すら知らねぇぞぉ。」
「それも結構。」

二人のやり取りなど余所に、その鮫はぐるりと車の周りを一周し、助手席の扉の前で止まった。私は窓ガラスに額がつきそうなくらいそれを見入る。青い炎を纏った不思議な鮫…

「アーロ!そいつだけ守っていろぉ!こっちは俺一人で十分だぁ。」








それでもさ、本当に一人で十分だなんて思わないよね。数十人対一人だったんだよ?やっと帰れるなぁなんて言いながら暢気に運転してるスクアーロさん。本当にさっきの人と同一人物?刀を振るう時のスクアーロさんは、怖い、けど…数分前までセクハラ発言してた人かと思うと、怖さも半減。私は思っていたよりも呆気なく、命の危機を免れたようだ。





あれ?





私たちを狙ってた人、殺しちゃったんだよね…じゃあ、さ。私がここにいる意味がなくなったんじゃない?真面目な顔して運転するスクアーロさんの横顔…見ていられなくて、目を逸らした。



stage32 end



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