くすぐったい。頬に何か…
「Buongiorno.」
「ん…あ、おはよ、ございます。って、何してるんですか?」
頬を掠めていたのはスクアーロさんの唇と綺麗な髪。朝っぱらから私を跨いで何をしてるんだ…霞む目をごしごしと擦れば、今度はその瞼にキスされた。
「なんだ、Buongiornoは知ってたのかぁ?」
「それくらいは…ちょっと勉強しましたし。じゃなくて、何してるんですか!」
「なかなか起きねぇから、チャンスだと思ってなぁ。」
何のチャンスだよもう…あれ?スクアーロさんシャワー浴びたのかな。凄く石鹸の匂いがする。早起きだなぁ。仕事柄、夜行性なイメージなのに。
「私も、シャワー浴びてきます。」
「手伝ってやろうかぁ?」
「結構です!」
私はバタバタと走りながらバスルームに向かった。あまり待たせてはいけないと思って早めに出たのに、スクアーロさんはもう着替えを済ませ、すぐに出掛けられる状態。うわー私服だ私服!髪までまとめちゃって、モデルさんみたい。そのメガネは何のオプション?普段とは大分イメージが違う。
「さっき部下に連絡して聞いたんだが、最近新しいショッピングモールが出来たらしい。そこでどうだぁ?」
「は、はい。…あの、目悪かったんですか?」
「目?…ああ、こいつか。インテリの優男が連れなら、敵方さんが出向いてくれるんじゃねぇかと思ってな。」
つまり変装か。いやでも、どうしたってスクアーロさんが優男に見えることはないよ。それに相手は一度スクアーロさんを見ている。迂闊には手を出してこないはすだ。はぁ…外に出る度、こんなに神経を使うなんて。
「心配すんな。守ってやるって言っただろぉ。」
そうだった。心強い護衛がいるじゃないか。理由は何にせよ、二人で出掛けるんだからデートだ。ちょっと楽しみ…
場所はショッピングモール。お目当てのものはあっさり見つかって一安心。ただここへ来るまでが大変だった。こんな色男の隣を歩くもんだから、メイクや服、アクセサリーなどを選ぶのに費やした時間はいつもの倍。更に出してくれた車は私でも知っているような高級車。乗るのにどれだけ躊躇したことか!
「他に何か見たいかぁ?」
「んー…服はルッスーリアさんと買いに行ったばかりですからねぇ。」
悩みながら当てもなく歩いていたのだけど、ある店先で足を止めてしまった。それは普通のランジェリーショップ。海外ってだけで下着も派手なイメージがあったから、意外と普通だなぁと思っただけ。それだけなのに…
「見てるくせに入んねーのかぁ?」
スクアーロさんはがっつり勘違いしてた。多少見てもいいかなぁとは思ったけどさ、流石にスクアーロさんと一緒の時は…ってちょっと何私の背中押してんですか!あーあー入っちゃったじゃんか畜生。
「…よく考えたらサイズ表記が違いますね。」
「測ってもらえばいいだろぉ。」
「そんな簡単に…それよりスクアーロさんは恥ずかしくないんですか?なんか堂々とランジェリーショップにいますけど。」
「別に。なまえがいるじゃねぇか。」
その男前っぷりには感服するわ。ご丁寧に店員を呼んで説明してくれてるみたいだし。私はまだ日常会話すら出来ないからね…一人で買い物なんて不可能だ。
「測ってこい。あと日本語しか話せねぇってことも言っておいたぞぉ。」
「ど、どうも。」
チラリと店員を見れば、ニコニコと笑いながら試着室を指さしていた。その店員さんが無駄に美人で内心ドキドキ。肌も髪も色素が薄く、細くて背も高い。これぞ海外クオリティ…
「あ、お願いします。」
「OK.ダイジョーブ!ハナセマス。スコシ。」
片言の日本語を使うその店員さんによると、今は日本人客が増えており、比較的お金持ちな日本人を相手にする為、日本語を学ぶ店員が結構いるんだとか。測定は簡単に終わり、私はスクアーロさんの元へと戻った。
「好きな柄を選べば、サイズは探してくれるそうです。」
「よかったな。」
そういう訳で店内をうろうろ。あれ可愛いなぁ…でもこっちのも可愛い。あーけどこれが一番着けてて楽そう…うーん。
「その右。」
「え?」
「なまえが持ってる物の右。…まぁ、お前の好きなのを買えばいいけどよぉ。」
「これですか?」
「おー。何かなまえっぽいだろぉ。」
うん、私っぽいとかよく分かんないけど一応キープ。好みの色だし、どうせ見せる相手はスクアーロさんなんだから彼好みの方が…うああああ何考えてんだ私!べべ別に見せる為に買うんじゃないんだよ!
「あれも。」
「え、どれですか?」
結局何組か買ってしまった。その殆どはスクアーロさんが「なまえっぽい」、「この色が似合いそう」、「これもいいんじゃねぇか」などと言って選んだもの。しかも買っていただきました…全て。いくらイタリア語が分からなくても、旅行に来てたんだからお金の見方くらい覚えてきましたとも。最近不景気だし、下着も高いよね。合計は結構なお値段…
「本当に良かったんですか?」
「今晩それ着けて見せてくれりゃあ俺は満足だぜぇ。」
「…知ってます?日本ではそれをセクシュアルハラスメントって言うんですよ。」
不審なものを見るような目を向ければ、スクアーロさんは頬を引き攣らせながら笑い、ハンドルをきった。私はこの辺の地理なんて全く分からない。けど、こんな道通って来たっけ?
帰り道、本当に合ってますか?
stage30 end
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