白く薄い湯気が充満している空間、そこに私は足を踏み入れた。絶え間なく水の流れる音が響く。

「おせぇぞぉ。」

振り返ったスクアーロさんにドキリ。水分を含んでいつもより重く、そして長く見える銀の髪を鬱陶しそうに掻き上げる仕草…何とも言えない興奮が、お腹の深いとこからじんわりと沸き上がる。

「ご、ごめんなさい…あの、スクアーロさん、左手の…」
「…言ってなかったなぁ。」
「え、何をですか?」
「教えてやるから、早くこっちに来い。」
「っきゃ!」

腕を引かれ、すっぽり腕の中に納められてしまった。背中にスクアーロさんの肌を感じる。やだ、何、このゾクゾクする感じ…きゅーって胸が痛い。

「あああの!…明るいんですけど…」
「恥ずかしそうだなぁ、なまえ。」
「だっ、だって。」
「お前から俺は見えねぇだろぉ?…俺からは見えてるぜぇ。お前のこと。」
「って余計恥ずかしいです!」

もーこの人は!しかも堂々と胸揉み始めましたよ?これ止めるべきだろ。うわ、今度は両手…え、何?この左手…よく見たら手首に繋ぎ目みたいな筋がうっすらと浮かんでいる。

「こっちはねぇんだ。」
「…嘘。だって、ちゃんと手袋…」
「この左手は義手だぁ。体温なんかありゃしねぇ。」

震える手で、スクアーロさんの白い手袋をずらした。普通の手…だけど、さっきのは見間違いじゃなかった。僅かに見える手首の筋。暖かい手だけど、これは降り注ぐお湯の温もり…?

「よく出来てるだろぉ?」

本当によく出来ている。一見、本物の手のようだ。セックスした時は、手袋のせいで体温がないことに気づかなかったの?そんなまさか…けど興奮状態だと些細なことには気づかない。例え、手袋から伝わる微量の熱がなくたって…

「こんな俺じゃあ嫌かぁ?」

弱々しい声、スクアーロさんらしくないな。そりゃ、ビックリしたし、嘘だと願ったのも事実だけど。

「そんなことない!…です。」

辛くないわけない。大好きな人の体…一部分だとしても、そこが欠損しているなんて。けどね、だからこそ今のスクアーロさんがあるのなら、私は失われた左手に感謝したいよ。今のスクアーロさんを、本当に大切だと思っているから。

「スクアーロさんのその情けない声の方が、いっ、嫌、です。」
「ゔお゙ぉい!言ってくれるじゃねぇかぁ!」

わっ!煩い…ガシガシ頭撫でるのも止めて欲しい。けど、スクアーロさんはこうでなくちゃ!外しますねって言ってスクアーロさんの左手をとり、手袋をスルリと引く。普段は外してシャワーを浴びているはず…私がいたから、着けてたんでしょう?これで両手が晒された。その時、ぎゅうって強く抱きしめられて、涙が出そうなくらい胸がじんじんした。

「っ!あ、離してください!」

そんな空気を引き裂いたのは問題のあれ。トクンと膣から垂れ落ちる感覚がして、私はしゃがみ込んだ。排水溝に流れる水がピンクに染まる。

「私、やっぱりお風呂は後で…」
「逃げる気かぁ?」
「…逃げる?」
「風呂なんざ関係ねぇ。なまえを脱がせた俺の勝ちだ…一発付き合ってもらうぜぇ。」

くるりと後ろを向けば、鮫。獲物を見つけた鮫の目だ。本物の鮫の目を見たわけじゃないけど、きっとこんな感じだと思う。自分の欲を満たさんとギラギラしている。違いは食欲か性欲かくらいだ、たぶん。

「だから、私、生理なんですって、ば!」
「ならナカで出してやろうか?」
「生理だからって、ぜ、絶対妊娠しない訳じゃないんですよ!」

つーか生理中は入れられると腹痛いんだよ…いやいやそういう問題じゃないけどね。あーもう!どうしたらいいの!?

「ムキになりやがって。冗談に決まってんだろぉ。」
「…スクアーロさん!」
「悪い悪い。髪洗ってやるから、機嫌直せ。」

本当に焦ったのに!しゃがみ込んだ私に合わせて、スクアーロさんが腰を低くしたのが分かる。濡れた髪を撫でる手は、左右共に優しくて、優しくて。



その作り物の左手も
アナタの体の一部だった




stage28 end



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