スクアーロさんに自分から抱きついて早十分。涙は何とか止まったけれど、私は取り返しのつかないことをしてしまった。私が抱きついてからスクアーロさんは一言も話していない。が、優しさからかスクアーロさんの腕は私の背中に回っている。しかしそれ故に離れ辛かったりもするわけで…今や涙ではなく冷や汗が流れそうな勢いだ。

「んっ」

その声を出したのは偶然。鼻水を啜った時、喉に詰まったから。それだけだ。なのに、その声を聞いたスクアーロさんはビクリと肩を強ばらせた後に腕の力を強めた。頭はスクアーロさんの肩に乗せていたはずなのに、頬がぶつかって…って、顔、近い近い!見えないけど、なんか密着部位が危ないよ!スクアーロさんの腿を跨いで座っちゃってるし、かっ肩に顔埋められてるし…胸なんかスクアーロさんの胸板で潰れてるんですけど。こ、これ大丈夫なの!?大丈夫じゃないよね、ねぇ!

「あっ、ぁ…の、」
「ゔお゙ぉい…さ、誘ってる…わけじゃねぇ…よ、な?」

“違う!”何でかなぁ。その言葉が出ないんだよね。口はパクパク動くけど、肝心の声が全く出ていない。あーもう、彼氏でもない人とこんな格好…尻軽女ーとか思われちゃうよね、うわー最悪。しかも初恋の人だよ?

「何とか言え…それとも、誘ってんのかぁ?」
「っ!ぁ、ぁ…」
「否定、しねぇんだなぁ。」

嘘でしょ?冗談!そう思ったけど、抱きしめられたまま私の体はソファに沈む。やっと離れた体は熱を帯びていた。視界には綺麗な顔と、綺麗な銀。私の上でこんな綺麗な景色が見られるなんて嘘みたい。夢なら覚めないで欲し…あー何考えてんだ。今危ない状況なんだよ?彼氏でもない人としでかす一歩前だよ?

「え、っろい体勢ですね。」
「確信犯だろぉ?」
「わ、私っ(全くそんなつもりないです!)」
「俺は確信犯だぞぉ。一応…」

何だって?いや、でもそうでなきゃ腿を跨いでたとか有り得ない。スクアーロさんが乗っけたわけだし。生憎、自分から跨がれる程の度胸は持ち合わせていない。

「ちょっ、んっ」

ええ!!どうしよう、いきなりキス、しちゃった、されちゃった!うわーうわー、す、スクアーロさんとキス!し、かも長っ。あわわわ舌、舌入っ…え、あ、気持ちいい。上手すぎじゃない?こんなキスされたことないよ。でも、でも正直…

「んっ、あ…やん、スクア、ロさ…くるしっあっ」

息継ぎくらいさせてほしい。スクアーロさんの肩を精一杯押し返して抵抗を試みたが、やはりびくともしない。職業柄鍛えているから云々ではなく、単純に男女の差だ。相手の方が年齢も上ときた。適うわけがない。それでも何もしないよりはマシだ。今度は肩をグーで叩いてみた。すると唇はちゅっと音を鳴らして離れる。口元に垂れた唾液を舌で舐めとるスクアーロさん、その姿はあまりにも妖艶すぎた。

「なぁ、いいだろぉ?」

スルリ、衣類の擦れる音。同時に素肌を撫でる手…やばっ、これは駄目!いくら私がスクアーロさんを好きだからって、付き合ってもいないのに、こんなこと…

「だ、駄目です!」

さっきから声は渋って喉から出なかったのに、ここぞと言う時に出てくれてホッとした。その声を聞いたスクアーロさんは動きを止める。今、だ!私はもう一度力いっぱい押し返してスクアーロさんの腕から抜け出した。目指すは廊下へと続く扉。一直線に走って勢いよく扉を開けた…は、いいのだが…

「あれ?またお部屋…」
「他にも部屋はあると言ったはずだぁ。廊下になら、その部屋の左側にある扉から出られる。」

今までいた部屋はスクアーロさんの部屋の中にある一室だったらしい。マンションかよ…って、スクアーロさん笑ってんですけど!からかってたのか!?

「ゔお゙ぉい、早く逃げねぇとまた俺に捕まるぞぉ。」
「は、はい!取り敢えず逃げます!」

取り敢えずかよって、また笑ってた。確かに可笑しな台詞だけど、今の私にはそれしか言えなかったから。言われた通り、リビング(っぽい部屋)の左側の扉を開いて廊下に出た。そこからは全力疾走。長い長い廊下を、私はひたすら走った。



stage14 end



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