キスってどうしてするんだろう。何故好き好んで口ん中の菌を交換するの?唾液が混ざり合っている様子を卑猥に映すAVなんかも嫌い。汚いだけじゃないの?レモンの味がするだの甘いだの、可愛い言葉で味を例えても現実は前回の食事内容によるんだ。

「スクアーロはキスしたことある?」
「ゔお゙ぉい…三十路バカにすんなぁ!そのくらい、あるに決まってんだろ。」

アルコールのあまり強くない酎ハイを流し込みながら、スクアーロは遠くを見るように目を細めた。昔の女でも思い出しているのか、はたまた現在の彼女(いるかどうかは不明)でも頭に浮かべているのだろうか。どちらにせよ、不快なことに変わりはない。

「そう、私はしたことないの。」
「ガキだな。」
「うん。そんなガキでも酎ハイくらいは飲めそうだから、一口頂戴。」
「なまえの国では20歳から、なんだろ?」
「暗殺部隊の私に、今更お国の法律なんて関係ないよ。スクアーロってそんなに律儀だっけ?」

冗談だと笑いながら、飲みかけのグラスを渡された。スクアーロが口づけていたところから飲んでしまう自分が気持ち悪いと思う。きっとキスだってこんな気持ちの延長線なんだろう。

「駄目、やっぱり私ってばガキだな。顔が熱いや。」
「度数低いぞぉ?」
「スクアーロはお酒に強すぎるの。」

グラスを返すと、スクアーロは残りを飲み干した。口づけた位置は先程とは違う場所で、私なんか意識してないって言われてるようで悲しかった。

「ね、キスってどんなの?」
「んー…いろいろ。」
「いろいろって?」
「普通のからエロいのまで、と、…エロの上。」
「何それ?」
「ガキには秘密だぁ。」

その肌に、唇に、触れられた女が嫉ましい。ねぇ、私の知らない何かをスクアーロとした気分ってどんなの?って聞いてやりたい。どうせ殺したってこの嫉妬は消えないだろうから。スクアーロになら何をされても汚いなんてきっと思わなくて、吐き気のするような奉仕だって、スクアーロになら喜んでしてあげたいって思うのに。私は、所詮、

「なまえ、教えてやってもいいぜ?」
「何を?」
「エロの上。」
「ガキには秘密でしょ?」
「なまえが大人になりゃいいだけの話だぁ。」
「大人…?」

あれ、なんて言おうと思ったんだっけ?私は、所詮…何だった?
初めてのキス。が、いきなりで、訳が分からなくて、でも相手はスクアーロで。舌が何かに絡め取られてる。やだ、何これ、怖い。力いっぱいスクアーロを押し返したけどびくともしない。そうだ、味…レモンだとか甘いとか言ってた味、そんなの全くしないよ。舌が味を感知せずに熱いって叫んでるだけだ。

「す、くあっ、んー」

息が出来ない、名前すら呼ばせてもらえない、ぽろぽろこぼれる涙の意味は分からない。怖いよ、ねぇスクアーロ、私怖い。やっと解放された唇は、カタカタと小さく震えていた。

「普通のキス。」
「嘘だ!」
「…普通ややエロ寄り。」
「大人ってこういうこと?」
「まだ序の口だぞぉ。」

そう言ってスクアーロは小さな一言を残してまた私に口づける。嫌なら嫌だと大声で叫べ、だって。こんな風に口を塞がれていたら声なんか出ないよ、スクアーロ。その長い銀の髪を握力の弱まった手で掴んでも、切れ長の目がチラリとそちらを見ただけで何も変わらない。
キスってどうしてするんだろう。答えが出ないよ。でも溜まった涙が重いから、私はゆっくり目を閉じる。好きにしていいなんて意味じゃないからね、勘違いしないで。スクアーロのこと大好きだけど、キスする意味なんてまだ分からないから。


意味なんてないけど
それはたぶん愛に似た何か



090713

エロの上はアブノーマル的な意味。


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