あの人は
「ぁ…っう…」
どうだったっけ?
「っ、んっ」
私は出来るだけ声を殺し、一人で遊んでいた。左で陰核を擦りながら右で出入口を攻めて…その指は紛れもなく私のもの。でも違う。少なくとも、私の中では違うの。
「(悪くねぇ。もっとだぁ…)」
「(欲に溺れるお前も嫌いじゃねぇぞぉ。)」
あの口が、脳裏を過る。口角が上がり鋭い牙がチラリと見えた。そしてまた呟くの。
「(イきてーよなぁ…)」
びくりと跳ねる体。指が速くなる。
「あっ、あっあっ…ああ…っ」
控え目な水音が耳を掠める。これが本当にあの人の指なら、こんな可愛らしい音じゃ済まないのに。
「スク、ア、ロ…んっ」
ねぇスクアーロ。どんな風に触ってくれてたの?同じように触ってるはずなのに全然違う。物足りないよ。最後の一線を飛び越える事ができないもどかしさが、嫌。
「スクアーロスクアーロスクアーロスクアーロっ…スクアーロ…」
愛おし過ぎて落ちた雫が頬を濡らす。まだ?まだ帰ってこないの?本当は昨日帰る予定だったじゃない。寂しいし疼くしあなたはいないし。もう何度名前を呼んだか分からない。
「スクアーロぉ。」
「へぇ。随分楽しそうじゃねぇか。」
またびくり。今度は別の意味で体が跳ねた。でもそれは、待ち望んだあの声で。
「い、つ…?え、あ、いつ部屋に…」
「気づかねぇぐらい夢中になってたのかよ。」
ケタケタと笑いながら、スクアーロはベッドに腰掛けた。そして悪戯っ子のような顔をして口角を上げる。想像してた顔と同じ、鋭い牙がチラリ。
「なかなか良い眺めだぜぇ。続きはまだかよ。」
「ばっ!ばか!…分かってる、くせに。」
早く頂戴よと強請る私を、優しく優しく撫で回す。片方は冷たくて、もう片方が温かい。スクアーロにしかない感覚に酔い痴れながら私は頬の涙を拭った。
14.09.10
おかえり、は心の中で。
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