「何考えてんだぁ?」
私の頭は現実に引き戻された。目の前にいるのはスクアーロ。さっきまで頭の中にいたのも、スクアーロ。妄想という名の世界で私に微笑んでいたスクアーロは、現実という名の世界で私を睨んでいた。
「え?」
「頬が随分緩いぜぇ。」
抓られた頬が痛い。
「元から。」
スクアーロに抓られると、もっと緩んじゃいそう。照れ隠しで払った手、触れただけで胸が苦しい。スクアーロはそんな私を気にも止めず笑った。
「嘘くせぇ。エロい顔してたくせに。」
「しっ、してない!」
仕方ないよ。いやらしい目で見てるわけじゃないけど、スクアーロって無駄に色っぽいんだもん。これが大人の色気ってやつか。
「変な妄想してると、明日の任務でミスが出るぞぉ。」
「経験者?」
「卸されてぇのか…」
スクアーロは一瞬左腕を上げただけで、すぐに腕を組んだ。人差し指で自らの腕をトントンと叩いている様子から、少しイライラしているように思える。
「怒っちゃヤ!」
「そんなくだらねぇことで怒るかよ。」
本当はいっぱいしてる。自分に都合の良い妄想ばかり。スクアーロの手が私に触れて、体中を撫で回す。そして耳元に唇を寄せて、優しい声で囁くんだ。私を好きだって。
「なまえ!」
「…っえ、あ、…何?」
「ゔお゙ぉい!ぼけっとしすぎだぁ!聞いてんのかぁ!!」
バンッと低い音が響く。テーブルに乗せられた書類の上に、スクアーロの左手が振り下ろされた。
「わ、分かってるよ。任務の話でしょ?明日の夜10時に出発して…」
「標的と場所は?さっき伝えたばかりだぜぇ。」
「……え、っと…」
聞いているつもりで、全然聞いてなかったんだ、私。参ったな…スクアーロに呆れた溜め息を吐かれるのは精神的なダメージが大きい。もっと褒められたい、認められたいのに。
「なまえ…」
「ごめん!ホントごめん!」
「違う。…謝罪させたいわけじゃねぇ。」
スクアーロは長い前髪を掻き上げ、そのままぎゅっと握った。伏し目がちで自信なさそうな顔。そんならしくない顔されると、心配しちゃうじゃん。
「誰だぁ?」
「は?」
「お前の頭ん中に居座って、そんな顔させてる奴。」
心配して損したかも。それ、私の目の前にいる人なんだけど…気付くわけないか。あれ?何か顔、近くない?
「俺の頭ん中はなまえでいっぱいなのによぉ。」
両手で包まれた頬がぽんぽん熱を持つ。頬に触れるのは左手だけにして。気付かれちゃう。いや、もう気付かれたっていいんだ。スクアーロの頭ん中に私がいて、私の頭ん中にスクアーロがいる。つまりそういうことなんだから。
「ゔお゙ぉい…誰なんだぁ?」
私の頭を占領する鈍感なこいつに、どう伝えてやろうか。真っ直ぐ指さしてドストレートってのも面白いよね。
「鈍感男。」
ちょっと驚いた後、スクアーロはぐちゃぐちゃと髪を掻き乱して俯いた。絡まることもなく、一瞬で元の形状に戻った髪が私の首筋を掠める。ああ、今、抱き締められてるんだ。テーブルを挟んだ向かい側、片膝を付いて行儀のよろしくないハグをくれたスクアーロに何てお礼を言おう。
妄想の中の笑顔が、現実に
「先週、なまえとナニすること考えてたら任務でヘマしちまってよぉ。」
「ナニって何さ!?」
100607
私の妄想の中の鮫はドSでエロい
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