真夜中に目を覚ました。外が真っ暗で、部屋を包む空気がバカみたいに冷たい。

「…お?」

隣に人肌を感じる。見ればそこには眠る前にはいなかった恋人の姿が。帰ってきたばっかりだったらしく、シャワーを浴びた後の湿った髪が頬に張り付いている。その髪を耳にかけてやると、首筋に真新しい傷口が見えた。胸がきゅうっと縮まって、痛い。私も同じ仕事をしているから、仕方ないってことくらい分かるんだけど…やっぱり心配で心配で。

「お疲れ様。」

その傷口をペロリと舐めた。痛かったかな?眉をピクリと動かして体を捩るスクアーロ。しかしそのお陰で胸元が先程より良く見えるようになった。あ、鎖骨の下にも傷口がある…あれも舐め、たい。少し迷った後、スクアーロの腹に跨り、服の裾を捲り上げた。

「お腹にも、ある。」

綺麗な体に散らばる傷口が痛々しくて、目の奥がじわっと熱くなる。私もマフィアであり、暗殺者だ。こんな傷、出来て当たり前。そう分かっていたって、自分の“女”としての気持ちが優先されてしまう。大好きな人が傷つくところを、見ていたくない。腹、胸、鎖骨…塞がれたばかりの傷口を舐め、赤紫に染まった皮膚にはちゅうっとキスをした。だから何かあるってわけじゃないけど…

「スクアーロ…」

傷だらけの腹にぽたりと涙を落とし、寝ているスクアーロの名を呼んだ。こんな危ない、いつ死ぬかも分からない仕事ばっかりしやがって。私も仕事は一緒だけど、任務のランク的に、明らかにスクアーロの方が危ないんだよ!だから、隣にいて応援してあげたい。手助けしてあげたいって思うの。

「寝込みを襲っておいて何泣いてんだぁ。」
「…起きないで。」
「普通起きるだろぉ。重…嘘、嘘だぞぉ!思ってねぇよ、そんなこと。」

遠ざかる私の腕を引き、スクアーロは自分の胸に私を体ごと抱え込む。黙ってその胸に体を預けていると、よしよしと頭を撫でられた。

「重いって、言った。」
「だから嘘「傷口、開いちゃいそうで嫌なの。」

やっと塞がったって感じの新しい傷が、ちょっとの刺激でぷつんといきそうで怖い。小さな傷がほとんどだけど。また涙が浮かんできた瞳で、ぼんやり傷口を眺めた。

「心配ばっかすんじゃねぇ。」

ぐるん。天井を向いた私。上にはスクアーロ…むすっとした顔して見下ろされると、こっちまでむっとしちゃう。

「俺は、強い。」
「…負けてんじゃん。何回も!」
「ばーか。何百戦中の数回だろぉ?」

スクアーロは私の頬を優しく擦る。人を殺める手が何故こうも優しく、何故こうも温かいのだろうか。その手が私の頬を包んで、顔を寄せてキス。キスする時の、この長い髪が邪魔で顔を左に傾ける仕草が、好き。

「スクアーロ…もっかい。」
「ああ。」

膝を立ててスクアーロの足を軽く挟んでみた。スクアーロは苦笑いを浮かべながら私の腿を撫で上げる。

「俺は眠いんだぁ。」
「ごめんね。私から誘っちゃダメかな?」
「いや、大歓迎だぜぇ。」

さっきのふわっとしたキスとは打って変わり、息が出来ないようなキス。スクアーロの背中に回した手に力が入る。

「剣士はな、背中から切られるのが一番情けねぇ。」
「そうなんだ…」
「背中だけには傷跡がないだろぉ?」

言われてみれば、手を滑らせても滑らかな素肌しか感じない。筋肉と骨と、皮膚から伝わる温かいスクアーロの体温があるだけ。

「この背中に傷を付けられるのは、なまえだけだ。」
「…うん。」
「いっぱい付けとけよぉ。」
「うん。」


誰かに付けられた傷なんて早く治してね。心配と手当てくらいならいつだって、いらないくらいしてあげるんだから。


すぐに消えちゃう一番情けない背中の傷は、治る度に付けるから覚悟しなさい


「あっ、いてっ。」
「ほら言わんこっちゃない。」



091207

実際背中にも傷はありそう



|


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -