夜も深けてきた。時刻はもう遅い。場所はとあるジャズバーの一角。目立つ長髪の、整った顔をした男性が、嬉しそうにスパークリングワインに口づけた。周りの女性客はその姿に頬を染めているが、当の本人である男性は隣に座る女性をうっとりと眺めている。ツレだとは分かるのだが、その女性は男性とは不釣り合いなほど幼かった。東洋人だから余計そう思うのだろう。ストローをくわえ、ストロベリーソーダを啜っている。

「この後はどうする?そろそろ送ってやろうかぁ?」
「やだっ、…まだ帰りたくない、の。」
「なら家に連絡入れとけぇ。親が心配してんだろ。」
「もう、また子供扱いして!」

女性は気に入らないと言わんばかりに眉を寄せた。男性は何故か満足気に笑う。

「それより聞いて。私、学校の実力テストで一番だったの!男女混合何でもありのガチンコ勝負で、みんな倒したんだよ!」
「大したもんだなぁ。俺が中等部にいた頃は、確か総当たり戦だったぞぉ。」
「私は一応高等部だよ?まぁ、あの学校に年齢なんてあまり関係ないけど…あ、それでね、そのテストの日に同じクラスの子がさ…」

女性は楽しそうに話すが、果たして男性は楽しんでいるだろうか。クラスメイトの話など、この男性には関係のない話だ。しかし、それでも男性は先程のように満足気に笑っていた。

「話疲れただろぉ。何か甘い物でも頼んでやろうか?」
「ちょっと!さっき子供扱いしないでって言ったばっかりでしょ!」
「ケーキは?」
「いらないっ!」
「アイスクリームならどうだぁ?」
「…欲しい。」

そして男性は一人分のバニラアイスを頼んだ。あまり待たずに出されたそれを、女性は嬉しそうに口へと運ぶ。

「美味しい!…やっぱり、味覚もまだ子供なのかなぁ。」
「気にすんな。急いで大人になる必要はねぇ。ゆっくりの方が…否、出来るなら、お前は子供のままでいいんだぁ。」
「ロリコン発言?」
「ゔお゙ぉい、そういう意味じゃねぇぞぉ。」
「あはは、分かってる。」

大人になって汚いことを知るくらいなら、子供のままでいてほしい。ということだろうか。ああ、分からなくもない。育つ体に、気持ちなんか伴わなくていいんだ。今やっと理解できた。男性が終始満足そうな顔をしていた理由。それは、この女性に惑わされているからだ。優しく問いかけるその声も、緩む頬も、全てが彼女への贈り物。幼い顔つきながら、男性を完全に翻弄している。きっとまだ、二人は恋人同士ではない。しかしそうなるのも時間の問題だ。女性はそれを望んでいる。男性はそれに気づいていて、態と振り回されている。愛しくてたまらないのだろうか。

「そろそろ出るかぁ。」
「ね、私行きたいところがあるの。」

女性はきっとホテルに誘う気だ。この男性はどうするのだろうか…OKするかもしれないし、NOと言って家に帰すかもしれない。

「美味かったぜぇ。また来る。」

そう言って、この目立つ長髪の、整った顔をした男性は私にブラックカードを突き出した。



090915

大好きな歌の歌詞から。題は歌のタイトルの直訳。
男性は鮫さん、女性はなまえさん。


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