「遊びに、行きたい。」

なまえは隊服の裾をぎゅっと強く握った。その前では、任務を言い渡したばかりのザンザスが顔色一つ変えずテーブルに足を投げ出している。

「俺の命令に逆らうつもりか?」
「…いいえ。」

部屋を出たなまえは廊下を歩きながらポロポロと床に涙をこぼした。それは日付が変わる少し前…同世代の女であれば、風呂上がりで高い化粧水をつけながら自分を磨いていたり、まだ遊び足りずに男を誑かしていたりするのだろう。それなのになまえは任務ばかり。こんな夜中に帰っても、明日の任務を言い渡される。そこには限られた自由しかなく、それはとても少ないものであった。年頃の女には悲しい条件だ。

「よぉ。」
「ス、クアーロ…」
「時化た面しやがって。」

そこに現れたのはスクアーロ。彼もまた自由の少ない生活を送っている人物の一人だ。尤も、彼はザンザスへの忠誠を誓ってここにいるのだから、その生活に文句などありはしないだろう。なまえもザンザスを大いに慕っているのは事実だが、スクアーロとは年季が違うのだ。

「…だって、私だって遊びたいんだもん。部下の女の人達は、いっぱい遊んでるのに。」

なまえは幹部唯一の女ということもあり、部下にも数少ない女隊員が含まれている。年齢はなまえより多少上だが、緊急事態でない限りその子達には週一で必ず休暇があり、その日となれば綺麗な格好で出掛けているのだ。それを見て羨ましく思ってしまうのは女の性とも言える。目に涙を溜め込んだなまえを見て、スクアーロは眉を少し下げた。

「それは下っ端と幹部の差だぁ。誇りに思え。俺だって、今のなまえと同じ二十前後の頃は…」

そこまで言ってスクアーロは口を噤んだ。思い返したのだ。自分が街上で目にする若い女がどんな風だったかを。皆綺麗に着飾り、楽しそうに友達や恋人と歩いていた。男には分からない何かがあるのだろうか、そう思うと、非難の言葉が出なかった。

「駄目だぁ。年を食うとどうも説教くさくなっちまう…悪かったなぁ。」
「分かってる。仕方ないことだってくらい。…あはは、それにしても今のスクアーロ、本当にオジサンっぽかったよ。」
「ゔお゙ぉい!笑うとこじゃねぇぞぉ。」

なまえは目に涙を残したまま精一杯笑ってみせる。例え十程年の離れた小娘でも、その姿は男の心を打つだろう。スクアーロも例外ではなかった。元よりなまえを気に掛けていたことを考えれば尚更だ。

「でも、任務と睡眠の繰り返しじゃ、華がないよねぇ。」

華とは勿論娯楽を指す。涙は飲み込んだものの、やはりすぐには諦めきれないらしい。なまえは頬を掻きながら苦笑いを浮かべた。

「遊びたい、か…なまえ、俺の提案に乗るかぁ?」
「何か楽しいことあるの!?」
「おう、楽しいぜぇ。」

スクアーロは何を思いついたのか、急に廊下を進み始めた。同時に、なまえは置いて行かれないようにと駆け足で追う。しかしスクアーロが次に立ち止まったのはある扉の前。

「あれ…ここってさ、スクアーロの部屋じゃん。つーか提案って何?」
「遊んでやるよ、俺が。」
「スクアーロが?」

カチャリと控えめな音を響かせて、扉は静かに開いた。きょとんとしているなまえの腕をがっちり掴んだスクアーロは、嫌な笑みを浮かべている。

「す、くあ、ろさん?あああまり聞きたくないけど…ドコでナニをして遊ぶの、カナ?」
「ベッドでナニをして遊ぶ。」
「やっぱりぃいいいーいやぁあああ!わわ私はそんな不純な遊びをしたいわけじゃないー!!」
「安心しろぉ、純粋な性欲だぁ。」
「ちょ、いやぁあエロオヤジー!!」

パタン。開いた時と同じく、控えめな音で扉は閉まった。


それはイケナイ遊びの始まり


三十二をエロオヤジ扱いした罪は大きいのです。

090908

毎晩遊んで欲しい、ね !


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