短編たち | ナノ





side那月


「…ストラップ、か。」

きたメールに頭の中をよぎったのは綺麗な泣き顔。
最近響がいつもぼんやりしてるのもその人のことが原因なんだろうけど。


ポケットにいつも入っている。
無機質で冷たいそれには、たしかにストラップがついていた。


どんなのだっけ、とポケットを漁ると爪にコツンとその硬いものが当たる。


「……ペンギン」


なんてことのないただのストラップ。
特別きれい、とか特別かわいい、とか高そうとかではない。

むしろ所々塗装が剥げているしどこにでも売ってそうな安そうなそれ。

だからこそ胸がざわついた。


返してほしい、というくらいなら大切なものなんだろう。
そっと手のひらの上で転がしたそれは、軽いのに重みを感じた。


響のことは好きだ。大好きだ。
愛してる。

その思いもありながら疲れたのも本当だ。

あの事が起きてからセックスもしなければキスもしてない。いつも通り誘ってくる響だが、どこか上の空なのだ。

そんな響を見ていたくなくてすべて断ってしまう。


だって響は俺を見ていない。

時雨くんといるときだけ、俺を見つめる。大切なもの、と言うように、愛おしいというように俺を見つめた。


でもそれ以外は響は俺なんて見てなかった。むしろ響はーーーー。



ストラップを握りしめた。

わからないけどこれをはやく返したい気持ちと、返したくない気持ちがある。


時雨くんのことは嫌いだったけど
でも、あんな姿を見たら嫌いになんてなれっこないんだ。


「響、話があるんだけど」


相変わらず上の空で横を歩く響。
ときおり唇を噛んで何かに耐えている響。

もう一度よびかければようやく反応した。


「ねぇこのストラップ見た事ない?」


響の目が大きく見開かれた。







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