短編たち | ナノ

side時雨


「あーーもう」


自分の未練にイライラしながら通学路を歩く。結局サボりきれなくて今日から復帰。
サボろうと思ったら普通に熱が出て風邪で休むといういたって普通な理由ができた。


手にしたスマホ。
画面はメール作成画面だ。


「ストラップだけ返してくれませんか」


その一文は那月くん宛
ほんとにイライラする

ストラップなんていらないじゃん
あんな塗装の剥がれたペンギンなんて


『これちょっと時雨に似てねぇ?』
『は?喧嘩売ってんの?』
『怒んなって、買ってやるから』
『いらない』


いらないって言ったのに。
いったじゃん

大切なものは増えれば増えるほど不安になるんだ。


『俺も買ってみた、おそろい』

無邪気な笑顔が胸を刺す。
苦しかった

でも幸せだった


『なにそれ最悪』


最悪、何て言いながら頬は紅潮してただろうし緩んでいただろう


最悪、最悪、最悪


唱えながら大喜びだっただろう


思い出にするから、思い出として大切にしたいから取り戻してもいいだろうか


震える指で送信ボタンを押した。


大丈夫、練習したから大丈夫

ーー幸せになってね


笑顔で練習したんだ、もう大丈夫だ。




戻る