短編たち | ナノ



18


またか、と思えるやりとり。
体育館裏は少し寒くて、頭痛は酷いし体も痛い俺にはすこしつらい状況。

ただいつもと違うのは、明確に俺と響が関係を持ってしまったことで

それは非常に最低最悪な状況なのだということだけはわかる。


「嘘だよね?響が君に誘われたからって、」

目の前でぼろぼろ泣きながら真偽を問う那月くん。
嘘だって、言ってあげればいいんだけど。

でも嘘にしてしまうにはことが大きすぎると思うんだ。


「だって時雨くんは響のこと、好きじゃないんでしょう」


「…」

「響から聞いたよ、君好きな人いるんでしょう?
響を代わりにしたの?」


頭ががんがんするな。
すごく近くでわぁわぁ喚いてる那月くんの声が遠い。


「時雨くんは最低だよ」


ああ、嫌な天気だ。
降り出すなら降ってくれればいいのに。
もやっとした湿気が今は吐き気がするほどきもちわるい。


「さいってい」


うう、とまた泣く那月くんはすごくすごく鬱陶しいとすら思えた。

なにが気に入らないんだろう。

ああ、響が俺とヤったことか。
しかも響は俺が誘ったことにしてんのか。


……なにそれ、なんかもはや面白い。


「那月、泣いてんの?」

茶番のごとく、へらへらと現れた響は俺の顔をみてすこしおどろいた顔をした。


最低はどっちだろう。
まぁいいけど。俺はどうせこの最低最悪なカスを嫌いになれないんだから。


「響は俺が好きなんでしょう?」

「当たり前だろ」


顔をほころばせる響。
涙目で響を見上げる那月くん。

幸せそうでなにより。
いつもならそんなふうにあっさり去っていくことができたのに、

動けずにいたのは自分が予想外にダメージを受けていたからだろう。


「時雨くん、」


気づいたら俺を睨んでいる那月くんが目の前まで来ていた。
後ろで何を考えてるかもわからない表情をした響が伺っている。


「……なに」

「謝ってよ」


「……嫌」


謝ればいいのに
謝れば、いいのに

なんで、とか、そんな疑問ほっぽって謝ればいいんだ。

でもいつになく、我慢のきかない自分は那月くんの揺れる目すら見ていられなくて俯いた。


その瞬間風をきるようなひゅん、という音がして、


バチン、

と大きな音が聞こえると同時に頬がひりひりと痛んだ。







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